ハイブリッド車(HV)はもはや特殊な存在ではなくなった――。
ホンダ首脳が高らかに宣言したように、2009年はかつて未来のクルマと言われたHVが大ブレイクした年として歴史に残るだろう。

 ホンダが2月に「インサイト」を発売し、市場を独占してきたトヨタ自動車の「プリウス」に挑戦状を叩きつけてから半年。両雄の激突は沈滞する新車市場に活気を生み、今や日本で売れる登録車の7台に1台をHVが占めるまでになった。車種が充実する10年には、エコカーの覇権を懸けた戦いが最初の天王山を迎える。

「あり得ない価格」にまで値下げしたプリウス

トヨタの3代目プリウス、販売開始

新型プリウスは、インサイトを意識して「あり得ない価格設定」に(豊田章男社長=発表時点では副社長)〔AFPBB News

 「純粋に技術的なことを考えれば、あり得ない」。新型プリウスの価格に関する情報が業界を駆け巡った3月上旬、インサイトの開発責任者は強い衝撃を受けた。性能が格段にアップしたにもかかわらず、最低価格は205万円と旧型より約30万円安い。おまけに、旧型をインサイトと同じ189万円に引き下げて併売する奇策にまで打って出たのだ。

 モーターを1個しか積んでおらず、エンジン走行が基本のインサイトに対し、プリウスは2個のモーターを使って電気自動車(EV)のように走ることができる。性能の差は歴然で、新型プリウスの本来の相場は230万円以上だ。即座に競合車並みに引き下げたのは、量産効果が生きるトヨタならではの力技だった。同業他社の首脳は「ホンダの出鼻を全力でくじくつもりだ」とうなった。

 5月の新型プリウス発売以降、車雑誌は相次いで両者を比較する特集を組み、「トヨタ車は買うなという家訓でもなければ、インサイトを選ぶ合理的な理由は存在しない」とまで書く専門誌も現れた。

ホンダのハイブリッド車、新型「インサイト」1万台受注

トヨタの牙城に切り込んだものの・・・(ホンダ・インサイト)〔AFPBB News

 プリウスは7月末現在の受注が20万台を大きく超え、発注しても引き渡しが新年度にずれ込むほど人気が過熱している。マツダの年間販売台数22万台、富士重工業の19万台(いずれもも2008年度)に匹敵する台数を、たった1車種が、発売わずか3カ月で稼ぎ出した計算だ。

 斬り込んで行った先で、返り討ちに遭ったホンダにしてみれば、「インサイトなら、プリウスよりぐっと納期が早いこと」(都内のホンダ系ディーラー)を売りにするしかない状態だ。