「オレたちが若い頃はね」なんて言い回しが口癖になると年寄りだ、と言われる。そういう中高年に限って、反論されようものなら、目の色を変えて上から目線で攻撃してきたりする。それゆえに、「年寄りは扱いにくい」と言われて敬遠されてしまうのだ。

 しかし近頃は、「年寄り」と呼ぶには年齢的に若すぎるビジネスマンが、同じようなことを口にするのが目立つ。「若い」と分類されるようなビジネスマンですら、「こうやって成功したことがあるんだから、同じようにすべきだ」といった言い方を上から目線でするのだ。

 この場合は、自分の経験というよりも過去の成功事例にならっての発言である場合が多い。それを自分の経験のごとく語ったりするから、違和感が強かったりもする。

 こうした過去の成功体験に依拠して、現在、そして、これからの行動を判断および規制しようとするのは、かなり日本的な発想である。こうやって成功したのだから、同じようにやれば成功する、という「信念」のようなものが根底にある。

役所の「前例がないから」という言い訳の本音

 成功体験を規範とする思考パターンは、役所に多い「前例主義」につながるところも多い。役所に行くと、「過去に例がない」という理由で門前払いされることが少なからずある。例えば「こういうデータを取っているはずだから見せてほしい」と申し込んでも、「確かに、そういうデータは取っています。しかし公開した前例がないので、見せられません」とくるのだ。

 決まりがあるわけでもないのに、「前例がない」の一言で門前払いしてしまうのは、おかしな話である。前例があろうがあるまいが、そういうものがあれば見せてしかるべきであって、隠すのは隠すなりに理由があるからとしか思えない。

 ただし、隠すべき理由がない場合も多かったりする。その場合、「見せた前例がないから」というよりも「見せても問題にならなかった前例がないから」という言い方のほうが正確である。そういう言い方をすれば、文句をつけられるのは明白だから、「見せた前例がない」と手前の表現で止めてしまうのだ。