銀行以外の事業会社に送金サービス(為替取引)を解禁する「資金決済法」が6月17日、成立した。今後1年以内に施行され、新たな金融業「資金移動業」が誕生する。悪質業者による持ち逃げ被害を防ぐため、送金の上限額も50万~100万円程度に制限される見通しで、送金額と同額の資産保全を求められるが、銀行のような自己資本規制や兼業規制は課されない。

 当初は、コンビニエンスストアの収納代行や宅配業者の代金引き換えサービスに対する規制強化との警戒感もあったが、金融庁の狙いは規制緩和だ。既に、米国の送金サービス会社が日本での事業拡大を検討するなど、銀行の聖域が崩れることで、手数料が大幅に下がったり、24時間サービスなどの利便性アップが期待されている。

 誤解を恐れずに言えば、新制度のキーワードは「ゆるさ」。

 新法が想定するのは、「立て替えてもらった飲み会費用の精算など、即時に相手に届かなくても支障が無いような送金」(金融庁幹部)だ。そして「ゆるさこそ、日本の銀行が最も苦手としてきた要素」(大手銀行幹部)と言える。銀行ほどは厳格ではない規制の下、厳密ではないがゆえの使いやすさを生み出せるか――。日本の金融・経済界にとって新たな挑戦になるかもしれない。

カタイ銀行、完璧主義でコスト高

 日本市場への本格参入を検討しているのは米決済サービス大手の「ペイパル」。1998年創業し、インターネットオークションの代金支払い手段として成長してきた。主要な17通貨に対応し、190以上の国と地域で利用可能。個人間の取引では原則的に手数料無料としたことが受け、ネット通販の決済では世界標準とも言える強さを誇る。

 欧州連合も加盟国に対し、今年中に送金サービスの制度を整えるよう指示した。インターネットの発展に後押しされ、モノ・カネの流れは急速に激化。送金に特化したビジネスの需要は増しており、日本も資金決済法によって「必要最低限の法基盤を整えた」(自民党有力議員)と言える。

 日本の金融機関、特に銀行は良くも悪くも堅い。それは基幹系システムを整備する姿勢に表れている。1990年代後半以降、メガバンクは統合の過程で、統合前の自前システム同士を合わせ、継ぎ目が見えないほどなめらかに磨き上げてきた。

三菱UFJが米モルガンと国内証券統合か、NHK報じる

合併に伴うシステム統合は歴史に残る大土木工事〔AFPBB News

 2008年に三菱UFJフィナンシャル・グループが行った銀行システムの完全統合は、最盛期に6000人が従事したとされ、関わったコンサルタントは「システム史に残る大規模な土木工事だった」と振り返る。

 統合後の早い段階から合併双方の銀行のキャッシュカードを双方の支店で使えるようになり、システムの整合性も整える――。こうした邦銀の完璧主義は、海外事情にも詳しい金融筋によると「合併が比較的多い米国でも聞いたことはない」そうだ。

 そして、為替取引でも完璧さを追求する邦銀の姿勢が反映されてきた。日本では銀行による送金は、個人間であっても営業日であれば即日処理が前提。仮にトラブルが生じたとしても「精緻なシステム」によって「支店のどこまで手続きが進んでいるか」を把握できる。大手行幹部は「決済で迅速・確実に履行するという点では世界で最も優れている」と胸を張るが、一方で「厳密さゆえに、手数料がある程度かさむ」と認めざるを得ない。

 新たな送金に求められるのは、もう少し「ゆるく、手軽で安価な」サービスだ。金融庁の担当幹部は「支払い事実を確認でき、保全されるならば、送金して実際に届くまで多少の時間がかかるサービスでも良い。スピードや厳密な手続きよりも、安さや使いやすさを優先する道はある」と示唆する。