世界的に株価が戻り始め、「100年に1度」の経済危機は小康状態に入り、最悪期を脱したようにも見える。その一方で、欧州の金融機関は東欧向け融資などの不良債権処理が遅れ、世界経済の新たな不安定要因になるとの懸念が払拭されていない。

 欧州最大級の金融グループ、仏BNPパリバ保険部門のエリック・ロンバード最高経営責任者(CEO)は先に来日し、JBpressの単独インタビューに応じた。ロンバード氏は欧州経済の見通しについて「今より悪くならない」との認識を示す一方で、「(世界経済全体には)注意深い態度で臨まなければならず、楽観的な状況ではない」と指摘した。

 BNPパリバはこのほどベルギー・オランダ系金融大手フォルティスを買収し、預金量でユーロ圏トップに立つ。日本では銀行・証券のほか、「カーディフ」のブランドで保険事業も拡大している。

「リーマン前」に戻っていない、株価ボラティリティー

 JBpress 世界経済の現状をどう見ているか。

エリック・ロンバード氏(51歳)
1981年仏HECビジネススクール卒、パリバ入社 89年仏政府報道官顧問、法相顧問、経済産業相顧問 93年パリバ銀行・保険部門M&A代表 2002年BNPパリバ金融法人グループ代表 04年アシュアランス部門CEO 06年~アシュアランス・カーディフ部門会長兼CEO 08年~仏バンカシュアランス(銀行窓販)協会長

 エリック・ロンバード氏 先ず金融について言えば、(2008年9月の)リーマン・ショック以前の状態に戻ったという、信頼できる指標が本当にあるのだろうか。

 そういう意味では、株式市場のボラティリティーは1つの指標になる。また、クレジットスプレッドやインターバンクの金利動向の指標が戻ったかどうかも、判断材料だと思う。このうち、株式市場のボラティリティーは往時には戻っていない。市場のスタビリティーはゆっくりとした回復基調にある。

 金融機関の資産の質を見ると、まだバランスシートはそれほど強化されていない。米国のストレステストの結果でも、一部の金融機関では短期間のうちに大きな資本が必要になることが分かった。

 次に実体経済では、ゼネラル・モーターズ(GM)の経営破綻がリーマン・ショックに続く、大きな歴史的イベントとなった。ただ、今回は米政府が迅速かつ非常によく準備を行い、対応に当たった。リーマン破綻時と違い、連邦破産法11条(チャプター11)を使ったが、その後どういう方向に持っていくのか、明確な方向性を示して対処していた。

 とはいえ、実体経済は相当に難しく、大きなダメージが継続しており、失業率も上昇している。全体を見ると、まだまだ十分注意深い態度で臨まなければならず、楽観的な状況には至っていない。

欧州経済、今より悪くならない

 ――米国に比べると、欧州の不良債権処理は遅れているのでは。西欧の銀行が貸し込む東欧地域が、次の「弾薬庫」になるのではないか。

 ロンバード氏 リセッション(景気後退)には米国が最初に入り、出るのも一番早くなる。欧州は後から入ったので、出てくるのにはもう少し時間がかかる。

 確かに、東欧には色々問題がある。実はBNPパリバに関しては、対東欧投資はそれほど多くはない。逆に、「対応が遅い」「もっとやれば、もっと儲かるのに」と批判されていたほどだ。だから、今回も大きな問題にはならない。