米ゼネラル・モーターズ(GM)の経営破綻は、決して「対岸の火事」ではない(2009年6月3日・漂流経済「GM帝国崩壊、デトロイトの終焉」)。日本の産業・金融界にとっても喫緊の課題は、国境を超えて肥大化する企業組織をいかに制御するかだ。「Too Big to Control(大き過ぎて制御不能)」に陥れば、101年の歴史を誇るGMのような巨大企業でさえ、命脈が尽きてしまう。

オペル、マグナに売却で合意 ドイツ政府

破産法適用を申請、米製造業最大の破綻〔AFPBB News

 トヨタ自動車は2008年の自動車販売台数でGMを追い抜き、「世界最大」の称号を獲得、悲願を達成した。一方、ライバルGMはビジネスモデルの中核である「規模の利益」を断念、縮小均衡を目指す「国有化」企業として再出発を余儀なくされた。

 しかし、「GMの市場シェアを奪取する絶好機」と考える余裕は、今のトヨタにはないだろう。関係者は「GMの窮状を見ていると、5年後にトヨタが確実に生き残っていると断言する自信はない」と話す。

 過去数年間、トヨタは高級ブランド「レクサス」や大型SUVなどに経営資源を集中投下し、地球規模で業容が急拡大した。連結ベースの全世界従業員数は32万人を超え、破綻前のGMを約8万人も上回っている。そして2008年3月期連結決算では、2兆2703億円という空前の営業黒字を荒稼ぎした。

肥大化する組織、でも指揮官は小型化

トヨタ、創業者の孫 豊田章男氏の社長昇格を発表

創業家出身「指揮官」、巨大組織を制御できるか〔AFPBB News

 ところが、金融危機発生後の2009年3月期は、4610億円もの営業赤字に転落した。わずか1年の間に「天国と地獄」を経験した渡辺捷昭社長は、「問題解決の徹底度とスピードが十分ではなかったと率直に反省している」として、社長退任と創業家への「大政奉還」を決断した。6月23日に開く株主総会後の取締役会で、豊田章男副社長が社長に昇格する予定だ。

 世界最高水準の燃費を誇る「プリウス」に象徴されるように、トヨタの技術革新はとどまることを知らない。しかしながら、クルマの性能ほどマネジメント能力は向上していないようだ。

 トヨタ関係者は次のように語る。「戦争と同じで兵力は多い方が有利だから、業容拡大を一概に否定すべきではない。しかし、組織が巨大化したのに、指揮官の器は小さくなってしまい、『Too Big to Manage』と指摘されても致し方ない。よほどスケールの大きな指揮官が出現しない限り、今のトヨタをコントロールできないだろう」

「世紀の合併」→破局、繰り返される失敗

 経営学の教科書的には、企業規模が大きくなれば経営効率が改善し、収益が拡大・・・。のはずだが、現実のビジネスはそう甘くない。巨大化した組織に経営能力が追いつかなければ、1+1が3どころか、1.5になってしまう。だから「世紀の合併」と持てはやされても、数年後に破局を迎えるケースが少なくない。

クライスラー、破産法申請へ 米ホワイトハウス筋

数奇な歴史が続く、今度はフィアットと・・・〔AFPBB News

 米自動車ビッグ3の一角、クライスラーは1998年に独ダイムラー・ベンツと合併したが、相乗効果を上げられず、業績は悪化を続けた。ダイムラーは「デトロイト」を制御できず、2007年に米投資ファンドのサーベラス・キャピタル・マネジメントへクライスラー株を売却してしまった。

 その後、クライスラーはGMとの合併を模索したが、資金繰り難で頓挫した。2009年4月に破産法の適用申請に追い込まれ、伊フィアットとの提携に復活を懸ける。今度こそ大西洋をまたいで、相互補完関係を構築できるのだろうか。