中国人民解放軍の海洋での動きが各国を揺るがすようになった。

 6月上旬にシンガポールで開かれたアジア安全保障の国際会議でも、中国の艦艇が南シナ海でベトナム側の艦艇のケーブルを切断したという動きが波紋を広げた。中国の海軍がフィリピンとの領有権を争う海域で新たな基地を建設し始めたという動きも、この会議で提起された。いずれも中国への批判が込められた議論だった。

 米国でも、新任のレオン・パネタ次期国防長官と前任のロバート・ゲーツ長官が、議会の証言や記者会見で相次いで中国の南シナ海や東シナ海での新たな攻勢的軍事動向に警告を発した。日本でも沖縄至近の海域を中国海軍の艦隊が往来するという新たな動きがあったばかりである。

米国が海軍大学校内に「中国海洋研究所」を設立

 さて、中国の海上でのこうした軍事動向を米国側はどう見るのか。米国では今、中国の軍事全般の動きの研究がかつてなく幅を広げ、奥を深くしている。

 かつての東西冷戦時代に、米国の国際問題研究分野でのベスト・アンド・ブライテストの人材がソ連の軍事研究に結集したように、今や中国の軍事研究は実に数多くの研究者や専門家を集めるようになってきた。米国全体にとって、中国の大軍拡が深刻な懸念の対象になったということだろう。

 その中国の軍事動向でも、特に今米国が気にかけるのは海洋での動きである。

 米海軍では2006年に「中国海洋研究所」という専門機関を設置した。目的は文字どおり中国の海洋戦略を調査し、研究することである。

 この研究所はロードアイランド州ニューポートにある海軍大学校の一部として設けられた。海軍大学校というのは、海軍軍人のうち少佐以上の幹部たちを特別に訓練する施設だ。その主目的に沿って、海軍力や戦略、安全保障一般にまでわたる広範な研究をも実施している。そのための研究者たちが海軍大学校での教授職をも兼ねて常勤している。「中国海洋研究所」もそうした研究活動のための主要機関である。

 その開設の時期は、ちょうど中国が海軍力を大幅に増強し、日本をも含む近隣諸国を動揺させ、米国が真剣に注意を向け始めたころだった。