中国内モンゴル自治区で、遊牧民が炭鉱労働者の運転する車にひき殺された事件をきっかけに、モンゴル族による抗議デモが相次いでいる。思いの外、素早い対応を見せた当局により容疑者はすぐさま拘束されたものの、今も緊張は続いたままだ。

内モンゴルに眠る豊富な天然資源

内モンゴル自治区、デモ拡大恐れ警戒強化

当局が警戒を強化している中国・内モンゴル自治区のシリンゴル地区の中心都市シリンホト〔AFPBB News

 今回の事件の要因としては、遊牧民vs都市定住民、少数民族vs漢民族といった対立の構図だけでもそれなりの説明はつくが、経済成長が急速に進む地域ならではの著しい環境変化が引き起こしたものという一面も見えてくる。

 内モンゴル自治区、と言われても、せいぜいだだっ広い草原地帯ぐらいしかイメージできないかもしれないが、そんな向きには20年前に製作された映画『ウルガ』(1991)が、この地の現状を把握する助けになるだろう。

 遊牧民としての日常に埋もれた生活を送る男が久しぶりに街に赴き目にしたものは、知らぬ間に近代化そして中国化が進んでいた世界。

 それでも草原は草原のままだったのだが、20年後の近未来の姿を提示する映画のラストでは、成長した主人公の子供はもはや遊牧民ではなく、工場の煙突から吐き出される黒煙と車の轍で草原は痛めつけられている。

レアアースの埋蔵量は中国一

 映画製作からちょうど20年たった今の内モンゴルが見せる現実そのものである。過放牧や気候不順といったことが原因となり草原が傷んでしまっている、との指摘はよく聞かれるものだ。

 しかし、中国経済振興の切り札の1つとも言えるレアアースが中国一埋蔵されているこの地に押しかける業者の中には、モラルや法令遵守の精神に欠けている者も少なくなく、環境への配慮が欠けたまま操業していることが招いた結果なのである。

 近年は新たに油田も発見されており、多くの鉱物資源に恵まれる内モンゴルだが、今回の事件の加害者が従事していた石炭産業も経済の柱となっている。

 中でも有名なのが、かつて満鉄の管理下に置かれていたこともあるジャライノール炭坑。ロシアとの国境の街、満洲里近くにある100年を超える歴史を持つ炭坑である。