MRIC by 医療ガバナンス学会 発行

 私は都立病院で内科の専門研修を行っている5年目の医師である。3月11日の震災の日以後、被災地の役に立ちたいと考えて機会を探っていたところ、5月28~29日の相馬市玉野地区の健康相談会の話を聞き、医師として参加することができた。

原発から50キロ以上でも高い放射線量

 ここで集められた客観的なデータは後に公式に明らかにされるはずであるから、一医師としての私個人の体験を報告したい。

 玉野地区は相馬市の北西部の山間部に位置する。相馬市街から車で向かうと、5キロほどで国道は両側を新緑の木々に覆われる山道となり、これをさらに15キロほど走ると目の前に田畑の広がった盆地が開ける。

 相談会の会場は、この国道から山を登るように細い道を入っていった先にある玉野小・中学校だ。2日とも生憎の雨天で、雲と同じくらいの高さにある会場は霧がかり、半袖では少し肌寒い。

 この地区は福島第一原子力発電所から北西50キロの距離にあり、いわゆる自主避難地域外であるが、玉野小学校校庭では5月25日に毎時放射線レベル3.0マイクロシーベルトを記録した。

 これは原発から同心円上南西にある、湯本高校(0.4マイクロシーベルト)などに比べ相対的に高値である。

住民の不安を少しでも和らげたい

 この原因としては、原発からの距離が北西に40キロ離れているにもかかわらず3.3 マイクロシーベルトを観測し、4月22日計画的退避区域に指定された飯舘村と同様、地形や風向き、霧が関係していると考えられている。

 このような相対的に高い放射線量を記録したことで、この地域に住む住民の方々は、放射線被曝に対する漠然とした不安に駆られながら日々の生活を送っている。

 今回の健康相談会の目的は、このような住民の方々の現在の健康状態を採血、採尿を含めた客観的なデータから確認し、健康上の疑問に対して医師が直接答えることで、放射線に対する不安を和らげようとすることであった。

 相談の対象になったのは玉野地区の住民140世帯470人。玉野小・中学校の体育館を会場にして、28、29日の午前・午後の4つの時間帯に分かれて行われた。