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 完全な経営戦略論は存在しない。20世紀初頭に生まれた「原形」は、環境変化に応じて改良・派生を繰り返してきた。本稿では『経営戦略全史〔完全版〕』(三谷宏治著/日経BP 日本経済新聞出版)から内容の一部を抜粋・再編集。企業がいかに理論を磨き、生存競争に勝ち抜いてきたかを振り返る。

 競争優位を失ったゼロックス、常識破りの生産性向上に挑んだサウスウエスト航空、V字回復を狙ったフォード…3社は難しい課題をどう克服したのか?

キャンプの「ベンチマーキング」がゼロックスを復活させた

■ ゼロックスの反攻。競合に学べ!

経営戦略全史〔完全版〕』(日経BP 日本経済新聞出版)
「ベンチマーキング」で復活したゼロックス
ロバート・キャンプ
・ゼロックスでベンチマーキング活動の責任者を務める
・1989年『ベンチマーキング』でベストプラクティスの発見を、1994年『 ビジネス・プロセス・ベンチマーキング』でその実践を説く

 1970年代は、ゼロックスにとって受難の時代でした。70年にはキヤノンが普通紙複写機市場に参入し、リコーやミノルタがこれに続き、75年には米国企業の訴えが通ってせっかくの特許がふいになりました。結果、ゼロックスの市場シェアは急落し、82年には13%にまで落ち込みました。圧倒的なポジショニングの強みが、あっという間に失われた10年でした。

 しかし、簡単に屈する会社ではありません。経営陣は「品質・時間・コスト」のすべての面で自社が日本企業に劣っていたことを謙虚に認め、企業革新を強力に進めました。そのための手法が全社的な「TQM」の導入であり、「ベンチマーキング」の活用による体系的な業務改善でした。他部署や他企業の優れた事例(ベスト・プラクティス)から、目標やプロセスを学ぶ手法です。