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 世界の企業が男女格差解消に向けて動く中、日本企業はいまだ「周回遅れ」と指摘される。単純な数字の比較では測れない“真の格差”の改善のため、企業がなすべきことは何か。本稿では『男女賃金格差の経済学』(大湾秀雄著/日経BP 日本経済新聞出版)から内容の一部を抜粋・再編集。格差温存により生じるデメリットや、変革のための知見、手法について解説する。

 優秀な人材の獲得競争が激しさを増す現代。20代からのキャリア形成を加速することは、採用力の強化だけでなく、男女賃金格差の縮小にどうつながるのか。

採用競争パラダイムで、年功制や年次管理はなくなる

男女賃金格差の経済学』(日経BP 日本経済新聞出版)

 現在、伝統的日本企業に見られる年功的な遅い昇進制度は岐路に立たされている。大企業では、10年から15年の一定期間は差をつけず同じ条件で競わせ、優秀な人でも40歳近辺で課長になるのが普通である。

 一方、組織を管理する立場に就かないと、部下の管理支援能力やコーチング力、他部署との調整能力、全社視点での戦略立案、事業化・収益化のプロセス構築、多文化チームの掌握、部下とのコミュニケーションといった、経営者に必要な能力を身につけることが難しい。

 こうしたマネジメント能力は、対人スキルを多く含んでいるが、対人スキルの開発は若いうちに始めるのが効果的であり、40歳から始めたのでは間に合わない。つまり、将来の経営幹部候補者のプールを選定した上で、20代、30代から彼らに責任と権限を与え、チームを率いたり、これまでの経験を超えた領域で人を巻き込む経験を積ませたりしないと経営人材は枯渇する。

 こうした成長機会を提供できる企業には優秀な人材が集まってくる。提供できない企業は採用市場での評判が傾き、優秀な人材の獲得に苦労するであろう。

 近年国家公務員の離職率が高まっている背景として、民間企業に就職した同期と比べ、官庁が若い世代に創意工夫の発揮を求められるような政策立案への巻き込みが足りず、成長機会のなさに失望して辞めるケースが多いと聞く。成長実感を高めるために、どのような経験をさせるかというのは、多くの企業で人事部の大きな課題になりつつある。

 今後は、年功的な人材配置や、年次ごとの人材管理から脱却する企業が増えてくるだろう。