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世界の企業が男女格差解消に向けて動く中、日本企業はいまだ「周回遅れ」と指摘される。単純な数字の比較では測れない“真の格差”の改善のため、企業がなすべきことは何か。本稿では『男女賃金格差の経済学』(大湾秀雄著/日経BP 日本経済新聞出版)から内容の一部を抜粋・再編集。格差温存により生じるデメリットや、変革のための知見、手法について解説する。
男女格差を縮め、性別多様性を高めることは、組織にどんな価値をもたらすのか。 格差是正と企業価値向上の関係、そして人的資本投資の本質的な重要性を探る。
男女格差縮小は労働市場や資本市場でどう評価されるか
『男女賃金格差の経済学』(日経BP 日本経済新聞出版)
男女賃金差の縮小に取り組む企業は、採用市場でのブランド価値の向上を通じて、女性の候補者プールの質の改善を享受する。
実際、本書の第4章でも紹介したBlundell, et al. (2025)は、英国における男女賃金格差の開示義務化の後、賃金格差は3パーセントポイント縮小したことを示した。また、その背景として、女性労働者が、全体の賃金水準が多少低くなったとしても男女賃金格差の低い企業を好む傾向があることが作用したエビデンスを示している。
男女賃金格差が大きい企業を女性が敬遠した結果、企業の採用戦略の修正につながった可能性が高いのだ。また、女性が働きやすい職場は、ワークライフバランスへの意識が高い若年男性からの高い評価にもつながる。
男女格差縮小と共に各職場で性別多様性が高まることが生産性に正の影響をもたらすことも期待されている。女性は社会的感受性注1が比較的高く、社会的感受性が高い人が多いチームほど集団的知性が高いことが示されている(Woolley et al. 2010)。集団的知性とは、集団内の情報、アイディア、知見が十分に共有され、行動がコーディネートされる結果、チームの生産性が個々人の能力の総和以上に高まる度合いを指す。
つまり、性別多様性の高い職場は、チーム内での情報共有、協力およびコーディネーションのレベルが高くなる可能性が高い。そして、そういった職場では、柔軟な働き方を可能にするデジタルツールの導入がさらなる生産性押し上げ効果を持つだろう。
注1. 相手の表情、しぐさ、言葉のニュアンスなどを通して、その人の感情や心理状態を理解し、共感する能力。






