写真提供:日刊工業新聞/共同通信イメージズ
起業家(アントレプレナー)とは、特別な才能を持つごく一部の人だけを指すのか。それとも、誰もがなり得る存在なのか――。本稿では『アントレプレナーズ』(澤田貴之著/創成社)から内容の一部を抜粋・再編集。さまざまなケースを通じ、時代を超えて必要とされるリーダーたちの姿に迫る。
縮小する家庭用ミシン市場を見据え、多角化戦略を展開したブラザー工業。家電製品をめぐる激しい競争で各社がしのぎを削る中、FAXやタイプライター、プリンター事業へと事業領域を広げ、高いシェアの獲得に成功した同社の経営マインドとは?
ミシンメーカーの対応 ブラザーの多角化戦略
『アントレプレナーズ』(創成社)
世界のミシンメーカーの中で、リーディングカンパニーとしての役割を果たしてきたのは、1851年創業のシンガーミシンである。米国に製造拠点を置き、足踏み式ミシンを世界に普及させたパイオニア的な存在であった。
第二次大戦中は米軍向け銃器生産に従事し、1960年代以降には多角化に向かいM&Aを繰り返すことになった。この頃から経営状態が怪しくなり、ミシン事業は遂に投資会社に売却され、2004年以降は別の投資会社(コールバーグ・アンド・カンパニー)が買収し、他のミシンメーカーとともに再編されている。
とりあえずシンガーというブランドは残ってはいるものの、シンガーでさえこうした末路をたどってきたわけであるから、他のメーカーは推して知るべしということになるであろう。
日本でも1984年に破たんした大手ミシンメーカー、リッカーのケースはシンガーとよく似ており、多角化が裏目に出て、本業では電子式ミシンへの移行が遅れたと言われている。
その後、ダイエーに吸収されたが、そのダイエーも多角化、M&Aを繰り返し本業不振に陥ると、最後はイオン・グループに吸収され、ダイエー自体も消滅してしまった。こうした経緯を並べていくと多角化やM&Aの弊害が強調されることになるが、この場合の多角化は事業転換への模索期として捉えることができる。






