写真提供:日刊工業新聞/ロイター/共同通信イメージズ

 バブル崩壊(1990年代初め)、リーマンショック(2008年)、コロナショック(2020年)など経済的な危機に見舞われるたびに大きく成長してきたアイリスオーヤマ。その秘訣について、同社の大山健太郎会長は「ピンチをチャンスに変える経営」ではなく、「ピンチが必ずチャンスになる経営」の結果と説く。同氏の著書『いかなる時代環境でも利益を出す仕組み』(日経BP)では、「経常利益の50%を毎年投資に回す」「新製品比率50%に設定」といった独自のKPIとともに、会社を変える「15の選択」を提示している。本連載では、同書の内容の一部を抜粋・再編集して紹介する。

 今回は、アイリスオーヤマの経営の原点を解説する。

本稿は「Japan Innovation Review」が過去に掲載した人気記事の再配信です。(初出:2024年6月20日)※内容は掲載当時のもの

ビジネスチャンス優先の経営

 アイリスの経営は、ビジネスチャンス優先です。いつ何どき、目の前にチャンスが出現してもすぐに対応できるように、常に準備をして待っています。そのために、自社の強みに特化する「選択と集中」戦略と、目先の効率は下がるかもしれないが、決して機会損失を起こさない「選択と分散」戦略の両方を追求してきました。

 それぞれの戦略の違いについては後で詳しく述べますが、集中戦略は、目先の効率は高めますが、外部環境の変化には弱い。環境変化を自社の成長に取り込むためには、目先の効率をあえて下げ、資本を分散させる戦略も必要です。「稼働率7割」はその一つです。

 ピーター・ドラッカー氏は、環境にただ対応するのではなく、環境を自ら変えることの重要性を指摘しています。私はそれを実践してきたつもりです。景気が悪くなったら経費削減に取り組み、影響を軽微に抑えるだけでは不十分なのです。

 これまでのアイリスの歴史を振り返れば、およそ10年ごとに起きる環境変化のたびに大きく成長しています。具体的には1991年の土地バブル崩壊、1997年の金融危機、2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災、そして2020年のコロナショックです。そうしたピンチが来たときに慌てるのでもなく、嵐が過ぎ去るのをただ待つのでもなく、確実にチャンスに変えて、業績を伸ばしてきました。

 もっとも、最初からそのような経営ができていたわけではありません。2020年でアイリスは創業して62年になりますが、最初の環境変化は1973年の第一次オイルショックでした。オイルショックのリバウンドで私は会社を潰しかけています。あんなにみじめで、悲しい経験は二度としたくないと思い、どんな環境でも利益の出せる仕組みを確立すると誓ったのです。