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 面接で良い人材に出会えない、欲しいターゲットから応募が来ない──採用に関する悩みが、日本企業の競争力をじわじわと削っている。一方で、欧米の企業では2000年代から“採用そのものを戦略と捉える”発想が主流となり、「TA(タレントアクイジション)システム」と呼ばれる新たな人材獲得手法が広がっている。本稿では、『世界標準の採用』(小野壮彦著/日経BP)から内容を一部抜粋・再編集。採用を「人事の一機能」ではなく「経営の意思決定」と捉えるTAの発想と、その実践方法を読み解く。

 採用において「企業カルチャーに合うか」は重要な判断軸の一つだが、その定義は曖昧であることが多い。組織を成長させるカルチャーフィットはどうすれば実現することができるのか? ファーストリテイリングの例を基に探る。

使えるカルチャー

世界標準の採用』(日経BP)

■「関係性カルチャー」は捨てよう

 関係性カルチャーとは、企業カルチャーの中でも組織内の人間関係に焦点を当てた部分です。

 これはチームワークを重視する行動規範などが典型的で、組織の調和や友好的な雰囲気を重視する内容が多いようです。

 今から10年前、ある日の午後。スタートアップの社長がため息まじりに相談を持ちかけてきました。従業員は40人ほど。新しい幹部を探しているけれど、どうしても「しっくりくる人」が見つからない。そのせいで事業が前に進まない、と。

「うちのメンバーの仲のよさには自信があるんです」

 社長の声には誇らしさがにじんでいました。

 話を聞いていくと、なるほど、ほとんどが知人や友人の紹介による採用でした。年齢層が似通い、驚くことに出身校まで同じような人たちばかり。まるで仲間内だけの同好会のような雰囲気が漂う会社でした。

「新しい人を採用するなら、うちの社風に合う人でないと」

 そう言い切る社長に、どんな企業文化を大切にしているのか尋ねてみました。返ってきた答えは、すべて「仲よしクラブ」の範疇を出ないものばかり。

 その瞬間、この会社の成長を阻むものが何なのか、はっきりと見えた気がしたものです。