出所:共同通信イメージズ出所:共同通信イメージズ

 世界中で宇宙ビジネスの動きが活発化する中、日本にも新たな可能性が芽吹きつつある。次世代基幹ロケット「H3」の打ち上げ成功がそれだ。2024年12月、著書『ロケットサバイバル2030 国産H3は世界市場で勝てるか』を出版したノンフィクション作家・科学技術ジャーナリストの松浦晋也氏に、国産ロケットが世界市場において求められる価値や、そこで生かされる日本独自の強みについて聞いた。

H3ロケットは「日本産業全体の新たな光明」

――著書『ロケットサバイバル2030』では、JAXAと三菱重工業が開発した日本の次世代基幹ロケット「H3ロケット」を主題としています。今回、どのような理由でH3ロケットをテーマに選んだのでしょうか。

松浦晋也氏(以下敬称略) 2024年2月17日、H3ロケットが打ち上げに成功しました。H3の1号機が打ち上げに失敗してから347日を経て、悲願の成功です。私は、この成功は日本の宇宙産業の「次なるステージの始まり」であると同時に「日本産業全体の新たな光明」でもあると考え、本書のテーマに選びました。

 私が日本の宇宙開発について取材を始めたのは、今から37年前の1988年です。当時、宇宙開発事業団(NASDA)※1 では、まだ、「H-Ⅰ」ロケット(1981年開発開始、1986年初号機打ち上げ成功)が運用されていました。純国産の「H-Ⅱ」ロケットの開発が始まったのは1985年で、初号機打ち上げ成功は1994年ですから、日本の宇宙産業の成長初期の時期です。

 私がロケットに魅了されたのは、ロケットが日常ではあり得ない光景を見せてくれるからです。ロケットはわずか120秒ほどで、高度100kmの宇宙空間に到達します。ただし、地面から垂直に、常に真上へと飛行するわけではありません。一定の高さまで上がると、進路を徐々に水平へと切り替え、やがて視界の彼方に溶け込むように消えていきます。

 そうした不思議な非日常体験に魅せられて、気が付けば三十数年間、ロケットを追いかけ続けていました。本書では、その記者生活で目にしてきたロケット開発における成功と失敗の舞台裏を記しています。

※1. 2003年に宇宙3機関(宇宙開発事業団、宇宙科学研究所、航空宇宙技術研究所)が統合され、現在の「宇宙航空研究開発機構(JAXA)」が発足した。