
ファストファッション、カーシェア、サブスク……。企業には今、これらを単なる短期的な消費の流行として見るのではなく、その背景にある長期的な「価値観の変化」として捉える視点が求められている。「現代の消費は、短命性・アクセスベース・脱物質という3つの特徴を持つ“リキッド消費”へと移行している」と語るのが、マーケティングを専門とする青山学院大学教授の久保田進彦氏だ。
リキッド消費の広がりは、あらゆる経済・産業・社会活動に広範に影響を及ぼしていく。リキッド消費という概念の本質と、今後の企業の事業展開に向けたヒントを、同氏に語ってもらった。
消費はなぜ“リキッド化”したのか──3つの視点で読み解く本質
──著書『リキッド消費とは何か』(新潮社)で、現代人の消費行動の変化について分析を行われています。そもそも「リキッド消費」とは、どのような概念なのでしょうか。

久保田進彦氏(以下、敬称略) リキッド消費(Liquid Consumption)とは、今日の消費動向を捉える大きなコンセプトで、英国の消費行動の研究者フルーラ・バーディーとギアナ・エカートが2017年に提唱したものです。
「リキッド」とは液体という意味ですから、リキッド消費とは「流動化した消費」と訳せます。「気まぐれな消費」と呼ぶこともできるでしょう。
もう少し詳しく説明すると、リキッド消費とは、
①短命性:その時々で欲しいものが変わる
②アクセスベース:物を所有せず、レンタルやシェアリングなどを使って必要なときだけ物にアクセスして利用する
③脱物質:物にこだわらず、経験を大切にする
という3つの要素によって特徴づけられます。
著書でも紹介していますが、例えばファストファッションの普及により、気軽に洋服を選べるようになり、その結果、人々は洋服に対して以前よりも気まぐれになったように感じますし(①)、自動車を保有せず必要なときだけカーシェアリングを利用するという人も増えました(②)。