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かつては“総合商社の万年4位”と言われた伊藤忠商事。21世紀に入ってからの成長ぶりは目覚ましく、2021年には純利益、株価、時価総額において業界トップに立った。大学生の就職希望ランキングでも、男女ともに圧倒的な人気を誇る。伊藤忠で何が起こり、経営や組織はどう変化したのか。本稿では『伊藤忠 商人の心得』(野地秩嘉著/新潮新書)から内容の一部を抜粋・再編集。岡藤正広会長、石井敬太社長をはじめとするキーパーソンの言葉を通して、近江商人をルーツに持つ同社に脈々と受け継がれている商人のマインドを明らかにしていく。
石井社長が考える、商人として成長する上で大切なこととは?
ベートーヴェンをぶっ飛ばせ

2021年から伊藤忠の社長COOを務めているのが石井敬太。石井もまた商人としての稼ぐ言葉を持っている。
石井は同社に入ってから主に化学品を担当し、インドシナ支配人兼伊藤忠タイ会社社長、専務執行役員エネルギー・化学品カンパニープレジデントなどを務めて社長になった。
彼は早稲田大学高等学院に在学していた時、ラグビー部に所属していた。同時期、早大学院ラグビー部は強豪校の國學院久我山を破り、「花園」の愛称で知られる全国高等学校ラグビーフットボール大会に出場した。
運動部出身だが、趣味は音楽。もっとも敬愛しているのはジャズのマイルス・デイビスだ。そんな彼が「商人の言葉」として大切にしているフレーズが「ベートーヴェンをぶっ飛ばせ(ロール・オーバー・ベートーヴェン)」だ。チャック・ベリーの曲のタイトルで、発売は1956年。しかし、石井が愛しているのはビートルズがカバーしたバージョンだ。
石井は音楽の話となると止まらない。
「社長室にレコードのカバーを飾っているんです。『ザ・ビートルズ・セカンド・アルバム』のキャピトル・レコード版。僕が小学生の頃、親父がアメリカ出張で買ってきてくれたものです。
1曲目が『ベートーヴェンをぶっ飛ばせ』。ボーカルはジョージ・ハリソン。A面のオープニングトラックだからこの曲のイントロが始まると、それだけでやる気が出てくる。よし、稼いでやろうという気にさせてくれます。