斉藤 この2つの大きな変化にさらされる中で、当社グループでは2019年にグループ経営ビジョン「Compass2030」を策定しました。この中で、国内エネルギー会社として初となる「CO2ネット・ゼロ」を宣言。これまでの都市ガス事業を柱とした経営から、事業ポートフォリオ型経営マネジメントを強化し、新たな成長領域である海外事業やGX分野などへの経営資源のシフトを加速しています。

 当社の140年の歴史において今は、日本で初めてガス灯を灯した「第1の創業」、日本で初めてLNGを導入した「第2の創業」に次ぐ「第3の創業」ともいうべき大きな転換期となっているのです。

 ところが、太陽光発電や洋上風力発電に乗り出すにも、誰もやったことがない。LNGトレーディングを強化したくても専門家がいない。人材のポートフォリオが都市ガス事業を主とするビジネスモデルに最適化されており、グループが描くビジョンに対応できていない、というギャップが明確になりました。

 これまでの都市ガス事業を主とする経営においては、社員がさまざまな部署をローテーションしながら、都市ガス事業のバリューチェーン全体の「ヨコ」について薄く広く知識・経験を獲得することが望ましいとされていました。

 しかし、新たな事業分野において競合相手に伍していくためには、事業分野ごとの「タテ」のラインを強くし、事業分野ごとのプロ集団を構築していく必要があります。

 その専門人材を育成し、新たな成長領域へとリソースをシフトし、人材ポートフォリオを再構築していく。このことを、当社グループにおける人的資本経営の基本方針としています。

東京ガスグループ 常務執行役員 CHRO(最高人事責任者)の斉藤彰浩氏(撮影:川口紘)

専門性の理想と現状のギャップを可視化する「CIRCLE」

――事業分野ごとの専門人材の育成と人材ポートフォリオの再構築を、どのように進めていくのでしょうか。

斉藤 まずは、目指すべき人材ポートフォリオと足元の状態のギャップを明らかにする「専門性の見える化」の取り組みとして、2023年度にタレントマネジメントシステム「CIRCLE(サークル)」を導入しました。

 このシステムでは、社員一人ひとりが自分の保有する専門性を、東京ガスグループ独自の「専門性ガイド」に基づき、業務別・レベル別に棚卸してCIRCLEに登録します。また、各事業の組織ごとに必要とされる専門性、およびその専門性の伸長に必要とされる業務経験・知識・資格や推奨学習、本社部長やGM級のポストごとに必要とされる専門性や行動特性もCIRCLE上では確認することができます。

 したがって、個々の「社員視点」で見ると、自分が理想とするキャリアにおいて求められる専門性と、現状の自分が保有する専門性のギャップが可視化された状態になります。そのギャップを埋めるためにはどんな業務経験や知識などを培えばよいか、という気付きの機会となるわけです。

 一方で「会社視点」では、CIRCLEを通じて各事業の組織・ポジションごとに理想とする人材配置と、現状とのギャップが可視化され、人事上の課題を正確に把握することができます。さらに、事業やポジションに必要な専門性、行動特性を持つ社員を見つけ出し、将来を見据えた採用や育成、最適配置などにも活用できます。