英国や欧州を取材して、彼らがモデルとする技術開発の場所はやはりシリコンバレーである。つまりシリコンバレーは世界中が注目するイノベーションを生み出す地域なのだ。シリコンバレーでは、実に活発にエンジニアたちが議論をする場所がある。

 普通のコーヒーショップやファミレスで議論するのだ。企業のエンジニア同士が知り合いになり、新しいアイディアを考え付き、起業する。こういった場こそ、イノベーションの源泉となる

 エヌビディアのフアンCEOは、シリコンバレーのファミレス「デニーズ」で仲間二人とコンピュータで写実的なきれいな絵を描くためのグラフィックスチップをどうやって実現するかに関して議論を繰り返し、エヌビディアの起業にたどり着いたという。

■ 3人寄れば文殊の知恵となる

「イノベーションは多数の凡人ではなく一人の天才が生み出すもの」と長い間いわれてきたが、多数の凡人でも天才並みの力を発揮することをIBMがかつて行った実験で分かった。

 この実験では、一人の優れたプロの棋士が、街の自称名人レベルの将棋好き数人と対戦した。プロの棋士と将棋好きと個人で争うなら、勝負にならないが、自称名人たちが互いに意見を出し合いながら次の手を相談して決めた。すると、互角の勝負を繰り広げたという。

 一人の天才の出現を待つのではなく、たとえ凡人でもチームとなって難題に立ち向かえば克服できることを上の実験は示している。よく、日本には天才が現れにくいが、平均値では世界的に上のレベルにいる、といわれている。このことは、天才的な技術者がいなくても比較的優秀な技術者が集まってみんなが力を発揮すれば、日本からもイノベーションを生み出せることを示唆している

<連載ラインアップ>
第1回 ソニー、ルネサス、キオクシア…日本の3大半導体企業は世界売上高トップ10圏外から巻き返せるか?
第2回 世界一のファウンドリTSMC誘致、国策会社ラピダス設立は、日本の半導体産業に何をもたらしたか?
第3回 ルネサス、ソシオネクスト、ソニー、キオクシア、東京エレクトロン…成長を続ける半導体企業に共通する稼ぎ方とは?
■第4回 なぜエヌビディアCEOは社長室を持たず、シリコンバレーのエンジニアはファミレスで議論するのか?(本稿)
第5回 半導体産業で今後も有望な企業は? エヌビディア、クアルコム、TSMCがファブレスとファウンドリで成長し続ける理由

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