ある企業では、ネットゼロを実現しようと、すべて再生可能エネルギーに切り替えたところ、想定以上のコストがかかることが判明し、経営層も問題視した。すると、なぜか価格交渉に問題があったことになり、調達部門に火の粉が飛んできたという。

 本来であれば、経済合理性も加味しながら、再生可能エネルギーだけでなく排出権取引など多様な方策を組み合わせて、複雑な方程式を解かなくてはならない。調達部門がグリーン電力の調達コストを提示して、それでも本当に導入するかという検討ができていれば、こうした問題は未然に防げただろう。

 関係部門と協力しながらオプションを整理したうえで、経営層の判断を仰ぐといった仕組みやプロセスが必要であり、特に全社的な検討や意思決定事項についてはトップマネジメントが主導する形をとったほうがよい。

● パターン3 サステナビリティ対応をないがしろにして、失注や株価下落を引き起こす

 パターン2とは裏表の関係にあるのが、財務上の都合を優先させてサステナビリティ対応を軽視してしまうケースだ。サステナビリティに関する社会的な要請は高まっており、環境や人権に配慮した持続可能な調達を達成するための取り組みが求められている。

 労働環境や地域社会との共生に問題を抱えるサプライヤーとの取引は、発注側の企業にとってもレピュテーションの毀損や取引機会の喪失につながりかねない。

 初期の事例として、1990年代後半に起きたあるスポーツメーカーのケースがある。この企業の製造委託先のインドネシアやベトナムの工場では、労働者が低賃金で長時間働かされ、そこには児童も含まれていることが発覚した。

 そうした劣悪な労働環境を放置しているとして、NGOがこの企業を非難してキャンペーンを打ち、世界的な不買運動に発展していった。また、大手テクノロジー企業でも同様に、長時間労働や過酷な労働環境などが問題視され、火消しに追われることとなった。

 これは海外企業のみが直面している問題ではない。日系電機メーカーの調達先であるマレーシアの電子部品メーカーでは、ミャンマー人の移民労働者が人権侵害に当たる不当な扱いを受けていることが発覚した。

 当該のマレーシア企業は訴えられ、NGOも激しく非難したが、それだけにとどまらず、発注者の日系電機メーカーにも矛先が向けられた。抗議が殺到しデモまで起こり、その収束に半年を要した。

 日系アパレルメーカーの中国の製造請負会社の過酷な労働環境に対し、地元のNGOが警鐘を鳴らした例もある。その後、カンボジアの縫製工場でも同様の問題が発覚し、国際的に大きく報じられた。

 サステナビリティ対応は優先しすぎても、ないがしろにしすぎても問題があり、どの企業にとってもバランス感覚が試される領域である。

<連載ラインアップ>
第1回 インテル、IBM、ファイザーほか製薬大手は、なぜサプライチェーンに大規模投資を行うのか?
■第2回 最安値が正義ではない、調達部門が直面しやすい「トレードオフ」の3つのパターンとは?(本稿)
■第3回 アマゾンは、いかにして調達における「競争優位性」を築き上げたのか?(11月8日公開)
■第4回 調達業務が高度化する中、日本企業はなぜ専門人材の供給・育成に注力しないのか?(11月15日公開)
■第5回 CPO(最高調達責任者)設置を基点とした、調達の「経営アジェンダ化」と「ガバナンス構築」のポイントとは?(11月22日公開)

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