MKCommerce&Communication代表 北沢みさ氏(撮影:宮崎 訓幸)

「ユニクロの社会貢献は、お金をもうけて余裕ができたからやっているのではなくて、柳井正社長が最初から『社会に良いことを事業にしよう』と考えていたことを伝えたい」──。著書『社会に良いことをする ユニクロ柳井正に学ぶサステナビリティ』の執筆動機をこう語るのは、「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングで初のユニクロPRマネージャーとしてブランディングとPRを担当した北沢みさ氏(MKCommerce&Communication代表)だ。「社会に良いことをするというのは、企業戦略の前提にあるべきだ」と北沢氏は主張する。

 前編に続き北沢氏に、ユニクロの社会貢献について聞いた。(後編/全2回)

【前編】「難民は地球規模の人的リソースの損失」初代PRマネージャーが語る、なぜユニクロはサステナビリティーに真剣なのか
■【後編】「小売りと社会貢献の現場は似ている」ユニクロの初代PRマネージャーが語る、三現主義の価値(今回)

<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者フォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
会員登録(無料)はこちらから

支援活動で実感した「服のチカラ」

――この本で紹介されているユニクロの社会貢献活動で興味深かったのが、「与える」「寄付する」ことだけが支援ではなく「働く」「選ぶ」場を用意することも社会の大きな支えになるのだということです。服を作り、売り、買う、そういう場所を用意するのは立派な支援活動なんだ、と。

北沢 みさ/MKCommerce&Communication代表

東京都出身。早稲田大学第一文学部卒業。メーカー、テレビ局などを経て1999年ファーストリテイリングに入社。ユニクロの初代PRマネージャーとしてブランディングとPRを担当。2018年に独立後は、マーケティングおよびECのコンサルタントとして、小売・アパレル業界を中心に複数企業を支援中

北沢みさ氏(以下敬称略)そうですね。私自身も東北の震災の際に、現地にずっとボランティアに行っていまして。最初は避難所に行って皆さんに衣類をお配りしていたんです。すごく喜んでいただけるのですが、時間が経過して少し環境が安定してくると、フェーズが変わり始めます。

「やっぱり服って一方的に配られたものではなく、自分の好きなものを、自分で選んで、買って、着たいよね」という気持ちが出てくるんですね。それに気付いて、自分もはっとしました。ユニクロでボランティアに行った他の人も同じように気付いたんだと思います。いつまでもただで差し上げているだけでは、本当の支援にはならない。

 それで、2012年3月11日に、気仙沼と釜石にユニクロの仮設店舗がオープンしました。自分が好きな服を選んで買えるし、働く場所もできたということで、「お店を出してくれてありがとう」と、たくさんのお客様に声をかけていただいたと聞いています。

 支援体験を通して、自分たちが製造し、販売している「服」のチカラを実感できることは数多くあります。難民キャンプに支援に行った同僚から「着るもので人の気持ちが変わることがよく分かった」という話も聞きました。

 避難してきた人々の中には武装した人もいて、キャンプに着いても緊張感が漂っていたそうです。でも、支援品として送られてきた、ごく普通のユニクロのフリースや、プリントTシャツに着替えると、表情が柔らかく、穏やかになるそうなんです。

 服が持つチカラを実感する体験を社員たちがすることは、服を扱うユニクロという企業が、今後、事業を通して社会に良いことをしながら成長していくためには、ものすごく大事だと思います。

 例えば難民キャンプの支援に行ってきた社員は、店舗で働いている人だったら、店頭でお客さまから不要な衣類として回収した服が、あのキャンプに届けられているんだと実感を持って理解できるわけです。そうすると「もっともっと集めなくちゃ」と、やっぱり思うんです。

 すると、お客さまに積極的にお声掛けをしたり、店の目立たない場所にあった回収ボックスをもっと前に出そう、とか、そういうことを自然にしたくなる、せねばならない気持ちになってくるんですよ。これはやはり、ユニクロが大事にしてきた「現場、現物、現実」を、社会貢献でも貫いているからこそだと思います。

 難民支援に当たる国際機関、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の方がこんなことをおっしゃっていました。日本の企業で難民を支援してくれる企業はたくさんある。だけど、ほとんどのところはお金の寄付か、支援物資の提供で、しかも物資を社員が直接届けに行くことはほぼないそうです。