松永 エリック・匡史氏(撮影:川口紘)

 15歳からプロミュージシャンとして活動し、バークリー音楽院でJAZZを学んだ後、外資系コンサルファームでパートナーを歴任したキャリアを持つ松永エリック・匡史氏。異色のバックグラウンドから生まれた独自の思考によって、ビジネスの世界で活躍してきた。現在は大学教授も務める同氏が、これまでの仕事を振り返りイノベーションにつながる思考法をまとめたのが著書『直感・共感・官能のアーティスト思考』だ。同氏が提唱する、先行きが不透明な時代に必要な「アーティスト思考」とは何なのだろうか。

【前編】一人称の感性がイノベーションの源に 松永エリック・匡史氏が語る「アーティスト思考」が今こそ力を発揮する理由
■【後編】欧米型の成果主義がイノベーションを阻害している?松永エリック・匡史氏が唱える日本企業に必要な「過去への回帰」(今回)

<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者フォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
会員登録(無料)はこちらから

最近の若者は「官能」を知らない

――本書では「アーティスト思考」を実践する上でのキーワードとして「直感・共感・官能」の3つを掲げています。

松永 エリック・匡史/ 青山学院大学 地球社会共生学部 学部長 教授 / 事業構想大学院大学 特任教授 /ビジネスコンサルタント/音楽家

1967年東京生まれ。幼少期を南米(ドミニカ共和国)やニューヨークなどで過ごし、15歳からプロミュージシャンとして活動、国立音楽大学でクラッシック音楽、米国バークリー音楽院でJAZZを学ぶ。その後、システムエンジニアを経て、コンサル業界に転身。アクセンチュア、野村総研、日本IBMにてデジタル領域のコンサルタントとして従事、デロイト トーマツ コンサルティングでメディアセクターAPAC統括パートナー、PwCコンサルティングでデジタルサービス日本統括パートナーに就任した。2018年よりONE NATION Digital & Mediaを立ち上げ、現在も大手企業を中心にデジタル変革(DX)のコンサルティングを行う。2019年より青山学院大学 地球社会共生学部 (国際ビジネス・国際経営学) 教授、アーティスト思考を提唱。2023年、青山学院大学 地球社会共生学部 学部長 就任。 著書に『直感・共感・官能のアーティスト思考』(学校法人先端教育機構)、『バリューのことだけ考えろ』(SBクリエイティブ)などがある。

松永エリック・匡史氏(以下敬称略) 誰かの課題を解決しようとするMBA思考やデザイン思考の枠にとどまっている限りは、先行きの見えないVUCAの世界についていけなくなる、とお話しました。

 誰かの課題でなければ、何を取り扱うべきなのか。その答えが自分の感性――すなわち「直感・共感・官能」です。

 自分の感覚を信じ、物事の価値を瞬時に捉える「直感」。第三者の感情に寄り添い、価値を感じる「共感」。感覚器官を最大限に敏感にすることで得られる「官能」。従来のビジネスでは重視されなかったこれらの感性が、新しい価値創造をもたらすアーティスト思考の起点となる――これが、本書で一貫して述べている私の主張です。

 中でも、最も大事なのが「官能」です。ここまでお話したように、アーティスト思考において発想の起点となるのは、自分が「好き」「心地良い」「欲しい」と思う一人称の思い、すなわち官能だからです。

 ただ、大学教員として大学生と日々接していると、不安になることがあります。

 デジタルネイティブの彼らの多くは、「いいね」「バズっている」というネット共感依存に陥っています。仮に「好き」と感じたとしても、そこには他者視点のバイアスが入り込んで「好き」と思わされているだけかもしれない。

 ネット上の口コミも問題です。あらゆる情報が溢れているため、まずいものや不快なものを、身をもって体験することなく避けられてしまう。まずいものを食べた経験がなければ、本当のおいしさは分からないでしょう。

 他者視点のバイアスやリスクを避けられる環境が「彼らの官能を鈍らせているのではないか」と懸念しています。

――ビジネスの観点では、人々の官能が鈍るとどんな影響がありますか。