「人的資本経営」へと転換するなか、企業はどのような採用プロセスに取り組むべきなのか。人的資本経営の研究者である法政大学キャリアデザイン学部の田中研之輔教授が聞き手となって、ソフトバンク執行役員である源田泰之氏を招き、個別のアプローチや2週間かけて行うインターン、AI活用などさまざまな取り組みを進めるソフトバンクの採用戦略に迫る。

※本稿は、Japan Innovation Review主催の「第4回 採用改革フォーラム」における「特別対談・人的資本の最大化のために~未来に向けていま企業がとるべき採用戦略とは/田中研之輔氏・源田泰之氏」(2024年6月に配信)をもとに制作しています。

マス向けアプローチを限定し、攻めの採用へと転換

 ソフトバンクでは毎年、新卒・中途・販売クルーをそれぞれ数百名規模で採用している。特に新卒採用では優秀人材獲得のためにさまざまなアプローチを展開しており、中でも「JOB-MATCHインターン」と呼ぶインターンシップが、効果を上げているものの1つだ。入社後の離職率も低い状態だとする。以下では、田中研之輔教授と源田泰之氏の対談から一部抜粋、再構成してお伝えする。

田中研之輔氏(以下、敬称略) 人的資本経営への転換という歴史的な節目を迎えている今、ソフトバンクはどのような採用戦略を取られているのでしょうか。

源田泰之氏(以下、敬称略) 8、9年前は、大量に母集団を集め、その中からソフトバンクにマッチするような人材を選考していました。しかし今は、その考え方を止め、就活生もしくはその前の大学生のうちソフトバンクに合いそうな人材やソフトバンクが求める人材に、私たちの方からアプローチする、そんな攻めの採用活動にシフトしています。

田中 マスを集めてエントリーをしてもらおうとする方法では、ソフトバンクが理想とする選考工程が得られなかったということでしょうか。

源田 ソフトバンクは8、9年前にはすでにグローバル事業やAI事業を展開していました。しかし、学生からすればソフトバンクは携帯電話の会社というイメージです。いくらマスに対してアプローチをしても携帯電話に興味のある人しかエントリーしてもらえません。AIに興味がある人材からの応募がありませんでした。そのため、ソフトバンクにマッチする人に、こちらからアプローチすることに転換したということです。

田中 攻めの採用へのシフトはどのように行ったのでしょうか。

源田 約2年かけて取り組みました。最初の1年はマス向けのアプローチにかけるリソースを約半分に減らし、余った分のリソースを活用して、海外採用を強化したり大学の研究室を訪ねたりするなどの活動を実施しました。

 結果として個別にアプローチした方が、よりマッチする人材と出会える可能性が増えました。また、マス向けの広告出稿量を減らしても母集団の規模はほとんど変わりませんでした。そこで、翌年から一気にシフトすることにしたのです(下図)。