ウェルビーイングというと、「そんなものは絵空事」「利益に余裕のある企業しかできない」と捉えられてしまうこともある。しかし、慶應義塾大学大学院と武蔵野大学の教授を務め「ウェルビーイング」「幸福学」研究の第一人者である前野隆司氏と、楽天グループでCWO※としてウェルビーイングを推進する小林正忠氏は「ウェルビーイングとは決してお花畑のような話ではない。企業の成長に直結するというエビデンスも多い」と声をそろえる。
以下では、ウェルビーイングの最前線にいる前野氏と小林氏が企業の成長に直結するウェルビーイングについて語った講演の骨子をお届けする。
※CWO(Chief Well-being Officer)とは、最高ウェルビーイング責任者のこと。「CWO」としては、健康経営を重視する「Chief Wellness Officer(最高健康責任者)」という役職もあるが、「従業員の健康」を広義に捉えた「ウェルビーイング」を推進する役割として、小林氏は2019年より「CWO:最高ウェルビーイング責任者」を掲げ、就任している。
※本稿は、Japan Innovation Review主催の「第6回戦略総務フォーラム」における「特別講演:企業の成長に直結するウェルビーイングとは/前野 隆司氏・小林 正忠氏」(2024年5月に配信)をもとに制作しています。
そもそもウェルビーイングとはなんなのか
前野隆司氏(以下、前野) ウェルビーイングという言葉が、昨今ようやく広く知れ渡ってきました。ただ、さまざまな捉えられ方があるので、まず定義を明らかにしたいと思います。
ウェルビーイングという言葉は、WHO(世界保健機関)が1948年に発効した世界保健機関憲章の中で、健康の定義として使われたのが最初です。健康とは、「身体的、精神的、社会的に良好な状態」を指します。この「良好な状態」を訳したのが“Well Being”です。つまり、ウェルビーイングとは、健康と幸せと福祉、身体と心と社会の良い状態のことを指すわけです。(小林)正忠さんは、ウェルビーイングをどのように定義して、CWOを務められていますか。
小林正忠氏(以下、小林) 私の考えるウェルビーイングとは、自分らしく生きるということです。
実は、私が2017年にCPO(Chief People Officer※)に就任したときには、まだウェルビーイングという言葉をよく知りませんでした。しかし、これから取り組もうと思っていたことを整理すると、それがまさに、ウェルビーイングだったのです。そこで、CPO改め、CWOとしました。
取り組もうとしていたことは、人や組織、そして社会を良い状態にするということです。その良い状態の中でも、特に個人における良い状態、自分らしく生きることをウェルビーイングとしています。
※CPO(Chief People Officer)とは、最高人事責任者のこと。社員の満足度の最大化および定着率を最大化するといった役割を担う。