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 大企業の経営幹部たちが学び始め、ビジネスパーソンの間で注目が高まるリベラルアーツ(教養)。グローバル化やデジタル化が進み、変化のスピードと複雑性が増す世界で起こるさまざまな事柄に対処するために、歴史や哲学なども踏まえた本質的な判断がリーダーに必要とされている。

 本連載では、『世界のエリートが学んでいる教養書 必読100冊を1冊にまとめてみた 』(KADOKAWA)の著書があるマーケティング戦略コンサルタント、ビジネス書作家の永井孝尚氏が、西洋哲学からエンジニアリングまで幅広い分野の教養について、日々のビジネスと関連付けて解説する。

 第6回目はビジネスの根幹となる問題解決力、その基本である数学的思考について取り上げる。

連載
永井孝尚のビジネスに効く教養

ビジネスパーソンの間で注目が高まるリベラルアーツ(教養)。変化のスピードと複雑性が増す世界で起こるさまざまな事柄に対処するために、リーダーには歴史や哲学なども踏まえた本質的な判断が必要とされる。本連載では、マーケティング戦略コンサルタント、ビジネス書作家の永井孝尚氏が、幅広い分野の教養を日々のビジネスと関連付けて解説します。

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ビジネスの本質「問題解決」にはパターンがある

 ビジネスの本質は「問題解決」である。何らかの問題が課せられて、いかにその問題を早く上手に解決するかが問われるのだ。

 例えばスーパーマーケットが課せられた問題は「日用品をいかに豊富に品ぞろえして、安く消費者に提供するか」だ。その問題を解決するために、スーパー各社は商品調達力を上げ、かつ低コストで提供できる仕組みを作るべく、各社努力している。そして一番うまく問題を解決したスーパーに消費者が集まる。

 法人企業を顧客に抱えるIT企業が課せられた問題は、「ITを駆使していかに顧客のビジネス力を上げるか」だ。その問題を解くために、顧客の具体的なビジネス課題を理解し、ITを駆使した解決策を考えた上で、その解決策を実現するITシステムを構築して提供する。そしてうまく問題を解決するIT企業が成長する。

 このように問題解決力は、ビジネス力の根幹なのである。

 そして問題解決には、鉄則がある。その基本は数学的思考だ。その原理原則が書かれているのが、数学者G.ポリアが1945年に書いた名著『いかにして問題をとくか』(丸善出版)だ。1945年刊行の本書は、世界で読まれてきた問題解決の原理原則を教える不朽の名著である。

『いかにして問題をとくか』(G.ポリア著、柿内賢信訳、丸善出版)

 著者のポリアはチューリッヒ工科大学やスタンフォード大学で数学教授を務めた一方で、数学教育に尽力した人物だ。國學院大学教授の哲学者・高橋昌一郎氏は、本書推薦の言葉で次のようなエピソードを紹介している。

 ポリアの教え子に、後にコンピューターの基本原理を作った天才フォン・ノイマンがいた。ちなみに現在のコンピューターのほとんどは、ノイマンが考えた原理に沿って動く「ノイマン型コンピューター」だ。

 高橋氏によると、本書は抜群に頭の回転が速かった教え子である天才ノイマンの才能に恐怖を抱いたポリアが「ノイマンのような天才は、なぜ誰も解けない問題をいとも簡単に解けるのか」を20年間考え続けた結果をまとめた本である、という。

 その「問題を簡単に解くカギ」は、本書の冒頭40ページに具体的な例とともにまとまっている。ここではそのエッセンスを紹介しよう。