トクヤマ 執行役員 デジタル統括本部長 兼 DX推進グループリーダーの坂健司氏(撮影:千葉タイチ)

 総合化学メーカーのトクヤマは、DXで取り組むべき25の施策を設定し、社長をヘッドとする全社プロジェクト「トクヤマDX(以下、TDX)」を進めている。2023年4月からは、従業員のDX教育も開始した。受講して身に付けた知識や技術を業務に生かす仕組みも盛り込んでおり、教育を修了した従業員がDXで課題解決した実例も出ているという。DX教育の中身について、同社 執行役員 デジタル統括本部長 兼 DX推進グループリーダーの坂健司氏に話を聞いた。(後編/全2回)

特集・シリーズ
シリーズ DX人材 ~人材こそがDX推進の鍵

今企業には、デジタル技術を武器に業務を見直し、事業を創り、そして企業を変革していく者、すなわち「DX人材」が必要だ。本特集では、DX人材の育成にチャレンジングに取り組む企業を取材し、各社の育成におけるコンセプトやメソッドを学んでいく。

記事一覧

従業員の理解度・満足度は85%以上

――トクヤマで行っているDX教育とはどのようなものでしょうか。

坂健司氏/トクヤマ 執行役員 デジタル統括本部長 兼 DX推進グループリーダー

1992年住友金属工業(現、日本製鉄)に入社。製造技術者としてキャリアを重ね、British Columbia大学での客員研究員、製鋼工場長等を歴任後、2010年にインドに駐在、現地法人の取締役として事業を展開する中、デジタル変革の潮流に触れる。2014年MBA取得。2015年に帰国後は日本製鉄、経営企画部上席主幹として海外事業、IT戦略等を推進。2020年にDX責任者としトクヤマに入社し、全社DXプロジェクトを企画推進中。2023年より現職。

坂健司氏(以下敬称略) 2023年4月より、二階層のDX教育を開始しました。一つ目の階層は、トクヤマの全従業員を対象にした「DXリテラシー教育」です。2025年までに全員が受講する予定です。もう一つの階層は、2026年までにトクヤマ従業員の10%が受講する「DX選抜者教育」です。いずれも順次、グループ会社に展開していきます。

 ここまでにお話しした通り、TDXを立ち上げるに当たって従業員の意識調査を行ったところ、DXの知識やリテラシーに対する従業員の自己評価は決して高くありませんでした(前編参照)。

 DXの知識やリテラシーに対する自己評価が低いままだと、取り組みへの参加をためらう従業員もいるでしょう。逆に自信を持ってもらうことで、DXの推進力が高まります。そこで全社が足並みをそろえてDXを進められるよう、まずDXリテラシー教育を行い、知識やスキルについて全体の底上げを行おうと考えました。

――カリキュラムはどのようなものですか。

坂 講義はeラーニング形式と座学形式の二つで構成されています。カリキュラムは、DXの用語理解やトレンドなど基礎的なものが中心ですが、意識した点を一つ挙げるなら、DXは単にデジタル化で終わりではなく、そこからビジネス変革を起こしたり、新しい価値を生み出したりするものだと伝える内容になっています。最終的には私たちもそこを目指したいという思いを込めていますね。

 実際に使う教育ツールは、世の中に展開されているものの中から選定しました。教育内容が当社に適しているかを重視したのはもちろん、全従業員への展開となるため、コストパフォーマンスも意識しました。

――開始から1年以上経過して、従業員の反応はどうですか。

坂 非常に肯定的な反応となっています。各講義の修了時に従業員アンケートを取っており、四半期ごとにその平均値を出していますが、これまで満足度、理解度ともに85%以上という結果です。