持株会社パナソニックホールディングス傘下の事業会社として、白物家電、空調機器、電設機器など5つの事業を展開するパナソニック。同社の新事業開発のコンセプトは、“既存事業部門が自ら変革することで、次世代の主力事業を育てる”ことにある。同社の新規事業開発とスタートアップ投資をリードする郷原邦男氏に、その現状と将来像を聞いた。
大企業とスタートアップの連携には限界があるのか
――パナソニックでは、新規事業創出において既存の事業部門と外部のスタートアップなどとの連携を重視しています。しかし、事業部門は独自の運営が確立されており、外部と組んで動くことには抵抗感があるのではないでしょうか。
郷原邦男氏(以下・敬称略) 世の中にそういう見方があることは承知していますが、少々古いイメージを今だに持っていると言いたいところです。当社の事業部門は、かなり外部との連携を進めています。
なぜかというと、事業部門のメンバーも、パナソニックだけで技術の進化に対応できるとは考えていないからです。
実際、私たちがスタートアップへ投資案件で会いに行くと、実はパナソニックの他の事業部と別件で話を進めているということがよくあるのです。自分たちだけでなんとかしようという段階は、すでに乗り越えていると思っています。
ただし、当社が外部のパートナーと連携した結果、大きな事業が生まれているかというと、そこはまだこれからの状況です。事業部門が外部と連携しようという気持ちは十分ありながら、結果につながるものを生み出せていないことが問題だと認識しています。
――なぜ、うまくいかないのでしょうか。
郷原 そこは構造的な問題も大きいと思います。現在商品開発を担っている事業部の人が、そのままのマインドでスタートアップとお付き合いをしようとすると、どうしても現状の機能を強化する、性能を高める方向性に向かってしまいます。これはある意味、やむを得ないことです。
しかし、事業部門である社内の各分社の中期的な事業計画を読むと、5年、10年先のビジョンが書かれています。そこには、現状の殻を破り、違う姿になりたいという記載があります。そうは言うものの、なかなか目の前の仕事に追われてそのための仕込みが難しいというのが現状です。
例えば、パナソニックのキッチン家電事業は、かなり世の中の認知度も高いと思いますが、その事業の目的は、お客さまにおいしい料理を提供することです。そのためには、家電だけでなく「おいしい食材」も提供したいという声が、幾度となく社内から挙がってきています。
しかし、当社の社員が農家の方と直接交渉して、野菜を取り扱ったり、果物の販売に乗り出そうとしたりしても、それはうまくいきそうもないということは容易に想像が付きます。なにより、農家と対等に会話ができる知識もノウハウも、当社は持ち合わせていません。
一方、世の中を見渡すと、農家の事情に精通しているスタートアップが、食材のダイレクト販売の事業を次々と立ち上げています。そこで、本社がCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)としてそうしたスタートアップに投資をすると同時に、事業部門はそのスタートアップと組むことで、事業領域を拡大することができるのではないかと考えています。それが、当社のCVC事業の基本的な考え方になります。
――スタートアップにとって、パナソニックと事業提携をすることは脅威になりませんか。
郷原 これも、よくスタートアップが大手に「食われる」という言い方をします。先ほどの例では、食材を扱う大企業と、食材のスタートアップだったら、そういうこともあるかもしれません。
しかし、家電メーカーと食材のスタートアップでは、それぞれの持っている能力が根本的に違います。当社がおいしい食材をお客さまに提供したいと考えていても、当社自身が直接食材の流通業になろうというわけではありません。それぞれ得意分野を持ち寄り、市場を作り出せると考えています。