Japan Innovation Reviewとフロスト&サリバンが共催したLIVEウェビナー「世界のEV市場の展望と日産自動車のEV戦略」のエッセンスを2回に分けてお届けする本連載。前編では、フロスト&サリバンの本多正樹氏による世界の電気自動車市場の展望と2024年の予測と、日産自動車の江嵜智和氏による同社のEVに関する取り組みを紹介した。
後編となる本稿では、江嵜氏と本多氏の対談の模様を“NGなし”で書き起こした。日産自動車で、国内における電気自動車を含む全車種の戦略策定の舵取りを担う江嵜氏が赤裸々に語る、日本のEV市場の現在地と普及拡大に向けた課題とは?
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日本市場はこの先2〜3年でEVを受け入れる環境に変化
本多正樹氏(以下敬称略) グローバルでEVの販売が減速しているという状況を、日産自動車としてどのように見ていますか? また、今後はどうなっていくとお考えでしょうか?
江嵜智和氏(以下敬称略) 長い目で見た場合、EVが主流になっていくという考えは、以前と変わっていません。弊社はその前提で意思決定をしています。
また、ここ数年のEV需要は過剰な一面もありました。私個人としては、その需要が一段落して、踊り場に到達していると見ています。一方、日産自動車に限らず各メーカーがEV車種をこの先、2〜3年の間に投入してくるでしょう。お客さまの視点では、EVが特別なものではないという社会になってくるのではというのが、今後の見立てです。
本多 なるほど。では、日本市場についてもお聞きします。日本のEV普及率は2%程度です。日本でEVの普及が遅れているように見える原因は何でしょうか?
江嵜 少し複雑な背景があると考えています。「政策」「メーカー」「ユーザー」の視点ごとに検討すべきポイントがあると思っています。
まず「政策」ですが、どの国においても普及に向けた優遇などが需要に大きく影響しています。普及率の高い中国は、100万円以上の補助金を受けられるケースもありますし、日本でも東京都内で日産「サクラ」を購入しますとやはり100万円の補助金を受給できます。「100万円」と聞けば、当然、購買意欲にも影響するでしょう。
「メーカー」の視点では、EV市場に多様な車種が投入されていくと、お客さまもEVを受け入れやすくなると思います。
3点目の「ユーザー」は、お客さまに乗っても良いかも、と思っていただけるため、EVそのものだけでなくインフラの充実が必要になります。より具体的にいうと、自宅充電器や経路充電の整備です。また、充電する際の料金プランをどうしていくかなども、EVに現実感を持てる要素となるでしょう。このあたりは、われわれとしても他のメーカーと一緒に取り組んでいきたいです。
とはいえ、これらの課題が解消されEVがますます伸びていく状況は、この2〜3年のうちに起こるとも思っています。
本多 それは、日本市場でもプレーヤーが増えていく必要があるということですか?
江嵜 はい。必要だと思います。
日本でEVに乗っている方に「次もEVを買いたいですか?」と聞くと、ほぼ100%がEVを買うと答えているんです。しかし、日本人の9割以上がEVに乗った経験がないので、多くの商品が存在している状況をつくり出すことも、EVが車の主流となっていくための方法になると思います。