時代を超えて輝き続ける18社を研究した『ビジョナリー・カンパニー』(1994年発行)は現在も経営者の必読書と言える名著だが、それをさらに進化させた本『愛される企業 社員も顧客も投資家も幸せにして、成長し続ける組織の条件』(ラジェンドラ・シソーディア、ジャグディッシュ・シース、デイビット・B・ウォルフ著/齋藤慎子訳/日経BP発行)が話題を呼んでいる。キーワードは「愛」。企業経営にはおよそ似つかわしくない言葉だが、顧客や投資家のみならず関係するあらゆる人・組織に愛されることこそが経営の本質だと説く。抽出された72社はビジョナリーカンパニー以上の実績を上げており、そこには共通して7つの特徴があるという。本連載では、同書から内容の一部を抜粋・再編集、愛される企業の条件を事例を交えて紹介する。
第1回は、「愛される企業」に見られる共通点を解説する。
<連載ラインアップ>
■第1回 ホンダ、コストコ、グーグル――「愛される企業」に共通する特徴とは(本稿)
■第2回 コストコの福利厚生は手厚過ぎる? 成長し続ける企業の「意外な条件」とは
■第3回 GEのジェットエンジン工場では、なぜ工場長がいなくても欠陥品が出ないのか?
■第4回 イケアやトヨタ、サウスウエスト航空は、なぜ「低価格、気高い魂」を重視するのか
■第5回 ホンダの成功のエンジン、「ベストパートナープログラム」はなぜうまくいくのか?
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■「愛される企業」とは?
「愛着」「愛情」「喜び」「誠意」「エンパシー(共感)」「同情」「思いやり」など、愛情を表すことばはいろいろある。少し前までは、こうしたことばはビジネスの世界で受け入れられていなかった。それが変わりつつあり、いまは、こうしたことばを難なく受け入れている企業が増えている。
だからこそわたしたちも「愛される企業」と造語したのだ。愛される企業は、簡単にいえば、すべてのステークホルダー集団の関心事を戦略的に調整することで、ステークホルダーに「愛されている」企業のこと。ほかのステークホルダー集団を犠牲にして利益を得るような集団はひとつもなく、どの集団もみんな同じように豊かになっていく。愛される企業は、ステークホルダーを喜ばせ、愛着を感じてもらい、ロイヤルティにつながるやり方で、すべてのステークホルダーの機能的ニーズにも、精神的ニーズにも応えている。
1990年代、「財布シェア」というマーケティング用語が流行り、顧客関係管理(CRM)と呼ばれる手法で最重要視されるようになった。しかし、顧客を数字としてしか見ない、味気のない、非人間的な見方を示すことばだった。圧倒的多数の企業にとって、顧客関係管理は、データ管理で顧客をさらに絞り込み、さらに搾取するためのものであって、顧客ニーズに親身に応じることではなかった。顧客「データ」管理と言ったほうがよかった。
愛される企業の考え方はこれとは異なり、「心のシェア」の獲得を目指している。顧客の心に居場所を獲得すれば、財布の中身は喜んでシェアしてもらえる。従業員の心に居場所を獲得すれば、生産性や仕事の質の飛躍的アップという形で応えてもらえる。サプライヤーと「心」がつながっていれば、より優れた製品の納入やすばやい対応といった見返りが得られる。自社の存在がコミュニティに誇りに思われるようになれば、顧客獲得にも人材採用にも困らなくなる(この「心のシェア」という表現には、一定量の愛や思いやりを分け合うイメージがあるが、「愛は無限」という表現どおり、そのような限度はない)。
では、株主はどうだろうか。デイトレーダーなどの短期投機家は別として、株主の大半は自分が投資している愛される企業に満足しているはずだ。利益もしっかり得たいが、心から応援している企業に投資している喜びもある。人は、モラルに欠けるような企業を応援しようとは思わないものだ。
大学基金や年金基金といった機関投資家も、投資先企業のモラルをますます意識するようになっている。それは、サステナブル投資、社会的責任投資、インパクト投資への急速な流れを見てもわかる。