青山商事執行役員 TSC事業本部長の河野克彦氏(撮影:宮崎訓幸)

 紳士服大手の青山商事が、コロナ後のスーツ市場を見据え新業態の展開を開始した。2023年5月、ビジネスウェア事業の主力業態「THE SUIT COMPANY(ザ・スーツカンパニー)」を「SUIT SQUARE(スーツスクエア)」に屋号変更し、これまでターゲット顧客によって分かれていた4つのブランドを1つに集約させたのだ。その第一歩としてオープンしたのがOMO(Online Merges with Offline:オンラインとオフラインの融合)型店舗の「SUIT SQUARE TOKYO GINZA店」(東京都・中央区)。青山商事は2025年を目処にザ・スーツカンパニーをスーツスクエア業態に移行させる考えだという。同社はなぜスーツスクエアを始めたのか。執行役員TSC事業本部長の河野克彦氏に話を聞いた。

本稿は「Japan Innovation Review」が過去に掲載した人気記事の再配信です。(初出:2023年10月24日)※内容は掲載当時のもの

SUIT SQUARE TOKYO GINZA店

スーツは不要になったのか?

──「ザ・スーツカンパニー」は新業態「スーツスクエア」に統合されます。どのような理由があるのでしょうか。

河野 克彦/青山商事 執行役員 TSC事業本部長

1994年青山商事に入社。洋服の青山業態にて2店舗の店長を経験後、2000年10月にザ・スーツカンパニー(以下TSC)1号店である日本橋店(2000年11月オープン)ショップマネジャーに着任。ショップマネジャーながら市場に合わせた新規事業の開発・運営を手掛け、2006年3月より、TSC営業部に異動し、ショップを取り纏める統括マネジャーに。2010年10月から2017年1月にかけ、TSC営業部の部長代理、部長、副本部長を経て、2019年6月執行役員TSC事業本部長に就任。

河野克彦氏(以下敬称略)「変わりゆくスーツの概念」に対応するためです。我々が「ザ・スーツカンパニー」1号店を日本橋に出店したのが2000年。当時はスーツと言えば百貨店で購入する高価な商品や郊外店の割引セール・セットセールの販売が主流でした。そこで、スーツカンパニーは都心の一等地に大型店舗を出店し「2つのプライスライン(税抜1万9000円、2万9000円)」「割引しない価格設定」「スーツの在庫数が約1500着の豊富な品揃え」という業界としては新しい販売形態に取り組み始めたのです。

 ザ・スーツカンパニーは結果的にビジネスパーソンが手頃な価格で買えるスーツブランドとして定着しました。その後、ワンランク上の素材を提供する「ユニバーサル ランゲージ」、レディース需要を取り込む「ホワイト ザ・スーツカンパニー」、勃興するオーダースーツへのニーズに対応する「ユニバーサル ランゲージ メジャーズ」を立ち上げました。お客様のライフスタイルとスーツに対する価値観の変化に合わせて、さまざまなブランドを立ち上げてきたのです。複数ブランドの展開は、消費者のライフスタイルの多様化に対応するのと同時に、長くブランドをご利用いただける「ロイヤルカスタマー」を醸成しようという狙いもありました。

 それが、2020年に入るとコロナ禍が直撃し、スーツ市場は激変します。在宅勤務の一般化に伴い、元々減少傾向にあったスーツ着用シーンが激減したのです。我々としても主力業態のザ・スーツカンパニーの物件費の高さや在庫の多さには悩まされていたところでした。

 一方で、「スーツは不要になったのか」と言われれば、答えは否です。レディース需要は増え続けていますし、20~30代は現在の40~50代が若い時と比較してもスーツに対するこだわりを強く持っています。若い世代の間で1着あたり単価が高いオーダースーツ市場が盛り上がっているのがその証左でしょう。さらに、近年はスーツもECで購入する傾向が強まっているなど、お客様の購買行動が大きく変化しています。実際、当社でもEC利用率は高まっており、アプリやSNSに登録しているデジタル会員は1680万人います(2023年3月期、前年比約200万人増)。※洋服の青山含むビジネスウェア事業全体

 つまり「オフィス出社用」のようにある程度決まっていたスーツの概念が、「カジュアルな場面でも着たい」「(高い金額を払ってでも)自分の身体にピッタリ合うものを着たい」と、お客様の嗜好によって多様化してきているのです。

 新しく開発した「スーツスクエア」業態では、これまで別々の店舗で販売していた4つのブランドを統合するほか、在庫数・店舗面積を縮小させながら、店内にもデジタル技術を取り入れたサービスを展開することで、変化し続けるスーツへの期待に応えられる新業態として出発したのです。