三井化学 代表取締役専務執行役員 CTOの芳野正氏(撮影:宮崎訓幸)

 長期経営計画「VISION 2030」で、従来の素材提供型から社会課題解決型へと事業ポートフォリオの転換を打ち出した三井化学。そこには化学企業としてサステナビリティに不退転の決意で取り組もうという経営の意思が感じられる。

 今後、サステナビリティにどう取り組んでいくのか、同社の代表取締役専務執行役員であり、CTO(最高技術責任者)でもある芳野正氏に、これまでの取り組みと今後の展望について聞いた。

三井化学の三瓶雅夫常務執行役員 CDO デジタルトランスフォーメーション推進本部長が登壇するセッション「サステナブルな社会をDXでいかに加速化できるのか」が、2024年2月21日、22日に開催される「第8回サステナブル・ブランド国際会議2024 東京・丸の内」(主催:博展 / Sustainable Life Media, Inc.)の中で行われます。「Japan Innovation Review」は同会議のMedia Partnerとして参画しております。

長所を融合させ、さらにいい技術を生み出す

——2022年、専務執行役員と同時にCTOにも就任されましたが、CTOのミッションについてはどのように考えていますか。

芳野 正/三井化学 代表取締役専務執行役員 CTO

1987年三井東圧化学入社。2003年三井化学基礎化学品本部企画管理部、2009年PT. PETNESIA RESINDO(インドネシア)社長、2012年三井化学工業薬品事業部長、2016年執行役員基盤素材事業本部副本部長、2018年常務執行役員基盤素材事業本部長、2021年取締役専務執行役員基盤素材事業本部長、22年より現職。

芳野正氏(以下敬称略) もともと大学での専攻は化学工学で、弊社に入社してからもしばらくの間は工場配属など技術系の仕事をしておりました。ところが40代の半ばごろからは営業など事業系の仕事につくようになり、実は技術系より事業系の仕事のキャリアのほうが長くなっていました。ですから2年前にCTOになったときは、久しぶりに技術系に戻ったような感慨を抱きながら、CTOとして何をするべきなのか、時間をかけてじっくり考えました。

 そして、弊社のなかでもっと力を入れなければならないのは、技術経営ではないのかと考えるようになりました。事業として進むべき方向性を示すということは戦略的にできているのですが、技術から見た経営、例えば弊社はポリオレフィンの技術が得意ですが、その中で触媒を伸ばすのか、それとも別の技術か、そのためにはどういう人材を採用して育てるのか、また事業間の技術の融合など全体を見渡しながら筋道を描いてコントロールする部署がなかった。

 そう思い至って2023年4月にCTO室を立ち上げました。当初は社内でも「何をする部署だ?」という受け止め方があり、まずはバーチャルな組織として走り始めました。

——今もバーチャルな組織なのですか。

芳野 この4月から正式な組織となり、専任の社員も配置するようになります。弊社の場合、ライフ&ヘルスケアソリューション事業本部とかICTソリューション事業本部といったように、技術別ではなく製品分野別に事業本部を置いています。そのため同じ技術を複数の本部でそれぞれ扱っていたり、良い技術が開発できたのにそれを扱う本部がなかったりといったケースがときおりあります。

 そういうものをピックアップして、CTO室で取りまとめて伸ばしていきます。また、技術を異なる本部でそれぞれ扱っているとき、両方のいいところを融合させればもっといい技術になる、あるいは一段上の事業展開ができる、そういうこともCTO室で取り組んでいきます。

——同じ技術を異なる本部がそれぞれ扱っているのは非効率的ということもあるのでしょうが、一方で技術自体が複合化し、学際的になっているということも背景にあるのでしょうか。

芳野 まさにそうです。一つ例を挙げると、日本で生産されている眼鏡の多くが当社のプラスチックレンズを使用しています。このレンズはライフ&ヘルスケアソリューション事業本部で扱っていますが、一方でスマートフォンのカメラで使われているレンズでも当社は高いシェアを持っています。ただし、こちらはICTソリューション事業本部の製品です。

 これらのレンズは材料の樹脂自体が異なりますし、製法やプロセス、加工法も違います。けれども光学的な評価の技術は同じで、両方の技術を融合させたらまた別の面白いものができるのではないかという発想で、今、いろいろなエンジニアを集めてCTO室でプロジェクトを走らせています。いいものが生み出せると実感しています。全社を俯瞰しながらこういうことを動かしていくのが、私のミッションです。