福岡ソフトバンクホークス 前監督の工藤公康氏(撮影:川口紘)

「監督の考え方として、まず作りたい組織やチームがあり、その上で個人に目を向けるのが主流です。しかし私はその逆で、あくまで最初に個人があり、その成長により強い組織やチームができていくと考えています」。こう話すのは、福岡ソフトバンクホークスの前監督の工藤公康氏だ。7年で5度の日本一に輝いた同氏は、監督の役目を「個人を育てること」だと答える。工藤氏のマネジメント哲学とはどんなものなのか。ビジネスの組織作りに活かせる部分はあるのか。インタビューで尋ねていく。

本稿は「Japan Innovation Review」が過去に掲載した人気記事の再配信です。(初出:2023年8月22日)※内容は掲載当時のものです。

プロ野球監督は中間管理職、上の意向はなるべく聞き入れる

――今日は工藤さんの監督論を聞きながら、一般企業の組織にも応用できる点を考えていきたいと思います。

工藤 公康/福岡ソフトバンクホークス 前監督

1963年愛知県生まれ。1982年名古屋電気高校(現:愛工大名電高校)を卒業後、西武ライオンズに入団。以降、福岡ダイエーホークス、読売ジャイアンツ、横浜ベイスターズなどに在籍し、現役中に14度のリーグ優勝、11度の日本一に輝き優勝請負人と呼ばれる。実働29年プロ野球選手としてマウンドに立ち続け、2011年正式に引退を表明。2015年から福岡ソフトバンクホークスの監督に就任。2021年退任までの7年間に5度の日本シリーズを制覇。最優秀選手(MVP)2回、最優秀防御率4回、最高勝率4回など数多くのタイトルに輝き、通算224勝を挙げる。正力松太郎賞を歴代最多に並ぶ5回、2016年には野球殿堂入りを果たす。2020年監督在任中ながら筑波大学大学院人間総合科学研究科体育学専攻を修了。体育学修士取得。2022年4月より同大学院博士課程に進学、スポーツ医学博士取得に向け研究や検診活動を行う。現在、仕事の傍ら農作業、DIYに勤しみ、子供たちの未来を見つめ、手作り球場や遊びの場を作る活動も行っている。

工藤公康氏(以下敬称略) プロ野球の監督は、企業で言うところの社長だと考える方が多いと思います。しかし実際は部長です。球団という大きな組織があり、その経営を任されたGM(ゼネラルマネージャー)がいる。監督の立ち位置はその下で、あくまで現場を指揮するのが役割。中間管理職であり、球団と現場の意向がかみ合わず板挟みになることもあります。

――現場の意向とは違う要望が球団やGMから来た場合、監督としてどうしていたのですか。

工藤 私はなるべく意向を聞き入れました。「まだ1軍に上げるのは早い」と思っていた選手でも、球団が望むなら基本的には上げます。頭ごなしに拒否するのは、私たちの要望も同じように突き返されることを意味するからです。

 大切なのは、要望を受け入れるものの、私たちの考えをきちんと説明することです。なぜまだ1軍に上げるのは早いと思うのか。代わりに2軍へ落とす選手も出てきますから、その選手がなぜ今のチームに必要なのか。どの部分を評価していて、1軍に上げる候補の選手よりどの点が優っているのか。必ず整理した言葉で伝え、それでも意見が変わらなければ応じます。

 単純なことですが、この“説明”を省く人が多いのも事実です。選手への技術指導も同様で、説明なしに「これをやりなさい」ではだめなのです。