「監督の考え方として、まず作りたい組織やチームがあり、その上で個人に目を向けるのが主流です。しかし私はその逆で、あくまで最初に個人があり、その成長により強い組織やチームができていくと考えています」。こう話すのは、福岡ソフトバンクホークスの前監督の工藤公康氏だ。7年で5度の日本一に輝いた同氏は、監督の役目を「個人を育てること」だと答える。工藤氏のマネジメント哲学とはどんなものなのか。ビジネスの組織作りに活かせる部分はあるのか。インタビューで尋ねていく。
本稿は「Japan Innovation Review」が過去に掲載した人気記事の再配信です。(初出:2023年8月22日)※内容は掲載当時のものです。
プロ野球監督は中間管理職、上の意向はなるべく聞き入れる
――今日は工藤さんの監督論を聞きながら、一般企業の組織にも応用できる点を考えていきたいと思います。
工藤公康氏(以下敬称略) プロ野球の監督は、企業で言うところの社長だと考える方が多いと思います。しかし実際は部長です。球団という大きな組織があり、その経営を任されたGM(ゼネラルマネージャー)がいる。監督の立ち位置はその下で、あくまで現場を指揮するのが役割。中間管理職であり、球団と現場の意向がかみ合わず板挟みになることもあります。
――現場の意向とは違う要望が球団やGMから来た場合、監督としてどうしていたのですか。
工藤 私はなるべく意向を聞き入れました。「まだ1軍に上げるのは早い」と思っていた選手でも、球団が望むなら基本的には上げます。頭ごなしに拒否するのは、私たちの要望も同じように突き返されることを意味するからです。
大切なのは、要望を受け入れるものの、私たちの考えをきちんと説明することです。なぜまだ1軍に上げるのは早いと思うのか。代わりに2軍へ落とす選手も出てきますから、その選手がなぜ今のチームに必要なのか。どの部分を評価していて、1軍に上げる候補の選手よりどの点が優っているのか。必ず整理した言葉で伝え、それでも意見が変わらなければ応じます。
単純なことですが、この“説明”を省く人が多いのも事実です。選手への技術指導も同様で、説明なしに「これをやりなさい」ではだめなのです。