メルコインの中村奎太CEO

 メルカリの子会社であるメルコインが手掛けるビットコイン取引サービスの利用者数が、10月に100万人を超えた。サービス開始からわずか7カ月で、国内最大手のbitFlyer、Coincheckに次ぐ業界3位につけた形だ。メルコインの中村奎太CEOは「このスピード感は類を見ない。暗号資産のトレンドから見ても、インパクトのある数字を作れた」と話す。国内暗号資産取引業者の口座は合計で839万口座(10月末時点)。1年間で約195万口座増加したわけだが、その半分はメルコインによるものだ。

冬の時代を抜け出た暗号資産

 実は暗号資産相場は長らく冬の時代を迎えていた。2021年にNFTブームや次のトレンドとして話題になったWeb3というキーワードと共に、ビットコイン価格は上昇。11月に700万円を超える最高値を付けた。

 しかし2022年に入り、アルゴリズム型ステーブルコインであるテラ(LUNA)の崩壊、仮想通貨の貸し出し業務を手掛けるセルシウス社の経営破綻(セルシウスショック)、そして世界最大手の暗号資産取引所の一つ米FTXの突如とした破綻により、価格は暴落。1年間にわたって価格は下がり続け、2022年の年末には210万円台まで落ち込んだ。

(※)自動的に供給量を調節するアルゴリズムにより価値を保つ仕組みのステーブルコインのこと

 メルコインがサービスを開始したのは、まだ春の到来が見えない2023年3月のこと。メルカリアプリに統合された形でスタートした。メルペイ残高からビットコインが買える、ビットコインは簡単にメルペイ残高に戻せるというシンプルな形が特徴だ。ユーザーはビットコインを外部に送金したり入金したりできず、ビットコイン保有数は円建てで表示されるため、自分がどれだけのビットコインを持っているかさえも分からない。いずれも、初心者が悩むことなく暗号資産に触れるために行った工夫だ。

国内暗号資産取引業者の口座数の推移。直近は年間で約200万口座増えたが、その半分はメルコインユーザーだ
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 一気に口座数を100万まで増やせた理由の一つは、口座開設において必須となるKYC(本人確認)が簡単なことだ。2000万アクティブユーザーを誇るメルカリは、資金移動業として必要となるKYCも進めており、すでに1200万人を超えるユーザーの本人確認が終わっている。こうしたKYC済みのユーザーは簡易なフローで暗号資産取引も開始できる。このハードルの低さが、狙い通り爆発的なユーザー数増加につながった。

 その甲斐あり、メルコインは暗号資産初心者の取り込みに成功した。ユーザーのうち、実に初めて暗号資産に触れる人が8割を占める。

 取引金額こそ少額だが、「利用頻度やアクティブユーザー率は他社とあまり変わらない」と中村氏は言う。メルカリのマイページを開くと、メルペイ残高と合わせて保有するビットコインの円建て残高も並んで表示されるようになっており、自然とビットコインが意識される。暗号資産の取引といっても、できるのはビットコインを「買う」ことと「売る」ことだけで非常にシンプル。こうした仕掛けも功を奏した形だ。

メルカリでモノを売って得た残高(売上金)と並んで、保有するビットコインの残高も表示される。自然とビットコインの価格変化に目が行く仕掛けだ
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