トラック運転手の時間外労働が年960時間までに制限されることで物流の停滞が懸念される「物流2024年問題」。アビームコンサルティングでサプライチェーン戦略領域を統括する原田健志氏にその解決の手立てと物流センターの関わり方を語ってもらった。前編では物流2024年問題の概要と解決策について紹介しよう。

シリーズ「アビームコンサルティング原田健志氏が語る『物流2024年問題』の課題と解決策」
【前編】アプローチは4つ、こうすれば「物流2024年問題」は解決できる(本稿)
【後編】物流センターの改革が「物流2024年問題」解決に大きく寄与する理由)

物流業界は先送りできない構造的な問題に直面している

 日本の物流は物量が増えていますが、それを運ぶ人は足りず、現場は疲弊しています。宅配便などBtoC(対消費者取引)中心の近距離輸送と、企業間や企業・物流センター間のBtoB(企業間取引)中心の長距離輸送に大別すると、前者のBtoCはネット通販の急拡大もあり、この10年間で物量が2倍以上に跳ね上がり、現場の作業量はぎりぎりこなせるような状況でした。そこに、コロナ禍による巣ごもり需要で、配送する物量が増えたのです。後者のBtoB物流も運ぶ量と距離を掛け合わせた「輸送トンキロ」が毎年伸び続けています。

 現場の負荷が増え続けているにもかかわらず、運転手の賃金はこの5年間ぐらいほぼ横ばいで、しかも、その賃金は全業種平均よりも1割低くなっています。それなのに残業時間は他の業種よりも2割多いので、結果的に人手が集まりにくいという負のスパイラルに陥っています。特に拘束時間が長いBtoB物流は危機的な状況であると言えます。

 運転手の高齢化も深刻です。そのため、物流2024年問題が起こらなくてもどの道、日本の物流業界は構造的な問題に直面して変わらざるを得ない状況にあったと言えます。もう見て見ぬふりはできなくなってきたのです。

アビームコンサルティングの原田健志氏(撮影:酒井俊春)

経営者はサプライチェーン構造の変革を迫られている

原田 健志/アビームコンサルティング 執行役員 プリンシパル エンタープライズトランスフォーメーションビジネスユニット デジタルプロセス&イノベーショングループ SCMセクター

北海道大学大学院工学研究科修了。外資系コンサルティングファームを経て現職。アビームコンサルティングにおけるサプライチェーン戦略領域を統括。自動車、産業機器、医療機器、化学、製薬、食品、消費財の多くの業界企業におけるサプライチェーン・エンジニアリングチェーン改革に従事。著書に『深化するSCM』(2015、インプレス)がある。

 2018年6月に成立した働き方改革関連法によって、トラック運転手の残業時間が年間最大960時間、月平均80時間以内になり、これが2024年4月から適用されます。罰則や行政指導もあり、悪質な場合は企業名が公表されます。

 業界団体の調査によると、近距離輸送で約30%、長距離輸送では約40%の業者で残業が年間960時間を超えている運転手がいると回答しています。国土交通省の調査によると、特に長距離輸送は1運行当たりの平均拘束時間(休憩などを含む)は21時間余りで、6年前の調査より5時間近くも延びているのです。

 物流2024年問題は「今までのような長時間、長距離での輸送ができなくなること」を意味します。その結果、荷物を欲しいときにこれまでのようなコストでは受け取れなくなります。

 長距離輸送では途中で中継地点を設け、引き継ぐ運転手の確保が必要になります。近距離輸送でも増員が必要になります。そうなると、「いつまでにこの条件でどこまで運んでほしい」といったこれまで物流業者に依頼していたサービスレベルが維持できなくなります。仮に運んでもらえたとしても、間違いなくコストは増えます。そのコストは企業や消費者が負担することになります。