日本の物流業界を悩ませる「2024年問題」の到来が目前に迫っている。高齢化が進むトラックドライバーの人材確保や待遇改善はもとより、輸送力不足の解消が喫緊の課題となっているが、そんな中、先ごろ三菱ふそうトラック・バスとの経営統合を発表した日野自動車の物流子会社が、2024年問題対策の先進的な取り組みを報道陣に公開した。はたして物流崩壊を阻止できるか。
輸送力不足解消のメドが立てられなかった要因
2024年問題とは、物流業界に年間720時間の残業規制が適用されることによる輸送力の大幅低下のこと。今はまだ従来のスキームで物流が動いているため社会の変化は人手不足による逼迫くらいのものだが、来年以降、様相が大きく変わる可能性が高まっている。
安倍政権時に働き方改革が推進され、2019年に年間残業時間720時間という上限が設けられたが、ドライバーの過重労働に頼っていた運送業界は医師などと並んでそのタイミングで残業規制を受け入れられる状態にはなかった。当時、平均年間労働時間は大型トラックドライバーの場合で約2600時間。1カ月あたり200時間を超える長時間労働である。それを何百時間も減らせば、物流が一気に崩壊してしまうのは火を見るより明らかだ。
ということで、運送業界については当面の残業規制を過労死ラインとされる月80時間、年間960時間としつつ、2024年までに本来の上限720時間に対応できる体質づくりをするということになった。
だが、フタを開けてみると残業規制を導入しながら輸送力を維持するメドがほとんど立てられないまま、あっという間に猶予の5年を使い果たしてしまった。中でも深刻なのは長距離、大量輸送を担う大型トラックのドライバーが不足していること。働き方改革で一人あたりの労働時間が減少するぶん、従事者の数を増やすことでカバーしなければならないのだが、現状維持が精一杯だった。
筆者は2008年に全日本トラック協会の首脳にインタビューしたことがあるが、当時すでに「大量輸送のカギを握る大型トラックのドライバーは高齢化を超えて老齢化が進んでいるのが実情。このままではドライバー不足が確実に進行する」という状態だった。
働き方改革の枠組みが決まる2018年頃には、10年後にトラックドライバーが30万人近く不足するという試算も出されていた。少子高齢化が加速度的に進行している中、そのトレンドをたった5年で変えるというのが土台無理な話だったのである。
輸送力不足を解消するメドを立てられなかったのは、何も運送業界のせいばかりではない。顧客の側である荷主の物流に対する意識が低い側面もある。荷物による「早着も遅延も許さない」という極端なジャストインタイムの強要、貨物の品目の行きすぎた細分化、野放図な予定の変更など、荷主の業務効率改善のツケを物流側に回し、輸送のリソースを無駄食いするような発注のしかたが常態化している。
トラックが担う陸運は全日本トラック協会、日本陸送協会といった業界団体の力が弱く、顧客である荷主のほうが立場的に優位である。そのため物流は“超売り手市場”となりつつあるにもかかわらず、運賃の値上げはおろか高騰する燃料費の価格転嫁すらままならない。結果、ドライバーの労働条件は労働時間が平均より2割長く、賃金が2割低いという劣悪な水準のまま。これでは人が集まらないのも当たり前である。