丸井グループの出店サービス「OMEMIE」のリニューアルプロジェクトを通して、プロジェクトメンバーたちは大きく成長し、自走する組織に生まれ変わることができた。自分で仮説を立てて課題に取り組み、やりたいことを実現していく姿は、やがて周囲のメンバーも動かしていくようになる。最終的に目指すのは、丸井グループが「私たちの価値観」として掲げる「人の成長=企業の成長」の体現だ。最終回では、OMEMIEリニューアルプロジェクトをリードした3人のキーパーソンから、組織内部の意識変革を進める中で感じたこと、企業が人材育成をする上で大切なことについて聞いた。

<シリーズ「フォーカス 変革の舞台裏 ~丸井グループ~」>
【第1回】目指すは「小売の民主化」、マルイの出店サービス「OMEMIE」の挑戦
【第2回】「正解を押しつけない」「一緒に考える」丸井グループに学ぶ自走組織の作り方
■【第3回】「OMEMIE」の熱量を会社全体に、丸井グループが描く「成長し続ける組織」の姿(本稿)
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企業としての成長を見据えて「組織の意識変革」を軸に

――OMEMIEリニューアルプロジェクトは組織の意識変革から始めたわけですが、その狙いはどこにあったのでしょうか。

莇大介氏(以下敬称略) 私が所属するMutureは、丸井グループとデザイン会社グッドパッチが丸井のDX推進のために立ち上げた合弁会社です。最初に丸井グループからDX推進の考え方について説明を受けた際、「グループとして人的資本経営に取り組んでいく」と聞きました。それを聞いて、丸井グループが企業として成長していくことを考えたとき、まずは組織の内側から変革に取り組むべきだと思いました。

 どんなに良いものを作っても、デジタルプロダクトの寿命はせいぜい3年といわれています。しかし、企業で働く人の意識変革を行えば、その後もずっと自走する組織として活躍することができます。

莇 大介(あざみ だいすけ)/Muture Executive Officer
Webディレクター・クリエイティブディレクターとして制作会社で10年以上の経験を積んだ後、2019年よりグッドパッチにてUXデザイナーとして新規事業の立ち上げやテック系のグロース案件などを担当。大企業からスタートアップまでさまざまな企業を支援。NewsPicks主催NewSchool「顧客志向のUIUX戦略」講師、日経FinTech「UIを支えるUXデザイン概論」講師。2022年4月よりMutureへ出向、同社執行役員。

清水 丸井グループには「人の成長=企業の成長」という価値観があります。小売業はお客さまがその時々で欲しいモノやコトを提供する仕事なので、お客さまのお役に立つためにわれわれ自身も進化し続けることが求められます。じゃみさん(莇さんのあだ名)の掲げる方針は、丸井グループにも合っていたように思います。

――Mutureでは社員同士の関係性を深めるためにお互いをあだ名で呼び合うなど、ユニークなカルチャーが特徴的です。カルチャーの全く異なる丸井グループと一緒に仕事を進めるにあたって、どのように意識変革を進めていったのでしょうか。

中村 大きく分けて「チーム」「個人」「決裁構造」と3つの段階を経て進めました。まずはチーム力を付けるため、役職や肩書きにとらわれないフラットな関係性を築こうとMuture同様にメンバー同士をあだ名で呼び合うことを提案しました。他にも、役割分担の明確化、課題や担当者を明確にするチケット管理、課題の進捗状況を可視化するツール「Backlog」を導入するなど、チームで情報共有する仕組み作りを行いました。

Backlogを用いて今ある課題を整理し、担当者や進捗状況を明確にした
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 次に個人のスキルを高めることに取り組みました。メンバーを増やし計2回行ったプロダクトマネジメントに関する書籍の輪読会では各自の理想のキャリア像を探り、意見を交わし合うことで社員個人の意識改革につなげていきました。自分たちがOMEMIEのオーナーであるという自覚や、責任を持って一つ一つの仕事をしていくという役職へのプライドを育てました。

 最後に、決裁構造を分割して責任者を明確にしました。今まではOMEMIEの細かい修正一つ行うにも清水さんの判断を待つ状況が発生していたので、清水さんには事業責任者として全体を俯瞰・統括する立場に専念してもらい、プロダクト関連の細かい課題は現場の人間である藪内さんに受け持ってもらうことにしました。

Muture Executive Officerの中村紘也氏

清水 私はOMEMIEの事業責任者という立場ですが、じゃみさんと出会ってからは、驚かされることばかりでした。まず専門用語だらけの会話で言っている意味が分からないし、判断のスピード感や守備範囲、進め方も全然違う。丸井にはあだ名で呼び合う文化もなかったですし、次々に発生する課題に翻弄されていてツールを活用してタスクを整理するという発想もなかった。いかにこれまでの自分の仕事のやり方が凝り固まっていたかを痛感しました。

丸井 テナントサクセス推進室 課長/プロダクトオーナーの清水将貴氏

――意識変革を進める中で、最もハードルが高かったことは何ですか。

 コミュニケーションが閉ざされないチームを作ることには苦労しました。丸井では組織が大きいこともあり部門間の壁が厚く、仕事をしていく上で必須となる連絡や相談、コミュニケーションの量、要望を伝えるスキルが不足していました。もちろん「自分はエンジニアだ」と仕事への理念を持って働くのは良いことですが、OMEMIEを通じて自分は何をしたいのか、ユーザーとどう付き合いたいのかを語れないと、全体としての意思疎通が図れません。そこでプロジェクトを進める過程では、個人の力を発揮した上で、専門性を互いに取り交わし合い、自然とコミュニケーションが生まれる環境を目指しました。