丸井グループの商業施設、マルイやモディへの出店相談から契約までをオンラインで完結できるサービス「OMEMIE(おめみえ)」は、2023年3月に大規模サイトリニューアルを実施したことで出店希望者からの問い合わせ件数が右肩上がりで伸びている。しかし当初、丸井グループのメンバーはリニューアルにあたって「したいことをどうやって実現すればいいか分からない」「どこから何に手を付けてよいかが分からない」といった状態だった。そうしたメンバーたちがなぜ自ら課題を探し、サイトの改善を自分たちの手で行えるようになったのか。その鍵は、最短で正解を目指すことを強いるのではなく、メンバーたちに実践の中で考えさせることだった。

<シリーズ「フォーカス 変革の舞台裏 ~丸井グループ~」>
【第1回】目指すは「小売の民主化」、マルイの出店サービス「OMEMIE」の挑戦
■【第2回】「正解を押しつけない」「一緒に考える」丸井グループに学ぶ自走組織の作り方(本稿)
■【第3回】「OMEMIE」の熱量を会社全体に、丸井グループが描く「成長し続ける組織」の姿(9/22公開)
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最終的に「自走できる組織」を目指す

――OMEMIEは2022年3月にサイトリニューアルを行いましたが、プロジェクトが始まった当初のメンバーはどのような状態だったのですか。

藪内友里亜氏(以下敬称略) リニューアル前のOMEMIEは情報がごちゃごちゃしていたため、出店希望者から頂いた問い合わせ対応もまずイベント出店希望なのか、常設出店希望なのかを確認するところから対応していました。サイト内を整理して見せ方を変えたいとは思っていたのですが、どのようなページに変えればよいのか、どこから手を付ければよいのかが分からない。やりたいことに対して、自分たちだけでできることとできないことすら、判断が難しい状態でした。

藪内 友里亜(やぶうち ゆりあ)/丸井 テナントサクセス推進室 プロダクトマネージャー 2011年丸井グループ入社。レディースシューズ売場にて販売や売場改装に従事。その後EC事業にてシューズの仕入れバイヤー、マーケティングを4年間担当。2020年より現職のテナントサクセス推進室にて、「OMEMIE」の企画からプロダクトリリースまでを経験。現在はプロダクトマネージャーとして戦略立案・マーケティング・UXデザイン等を担当。

――グッドパッチはサポートする側として、「やりたいことはあるけれど、方法が分からない」という悩みをどう解消していったのでしょうか?

藤沼拓巳氏(以下敬称略) 私が所属するグッドパッチは、ビジネスの課題をデザインで解決する会社です。もともと丸井グループと仕事をしていく中で、「丸井グループのDXを多方面から推進するジョイントベンチャー(共同出資会社)を作ろう」という話が生まれ、設立されたのがMutureです。この流れを受け、グッドパッチがMutureからOMEMIEのデザイン担当を再委託され、丸井グループ、Muture、グッドパッチの3社でサイトリニューアルに取り組むことになりました。

 Mutureからは「最終的に丸井グループのメンバーだけで自走できる仕組みにしたい」と聞いていたので、グッドパッチとしてはプロダクト開発の考え方や進め方を丸井グループのメンバーが理解できる説明になるように心掛けました。あくまでもOMEMIEを運営するのは丸井なので、技術を教えるというよりは、丸井がやりたいことに対して必要な知識は何かを一緒に実践で学んでいく、といった表現が適切かもしれません。

 そこで、まずは丸井グループとグッドパッチ、Mutureの3社で信頼関係を築くため、サイトデザインのリサーチやユーザーの意識調査を約100人いる店舗事業部のメンバーと一緒に行いました。ユーザーの意識調査では、実際にOMEMIEを使用したことがある出店者に、いつ、どういう状態で使ったのかをヒアリングして、ユーザーとなる出店希望者の解像度を上げていきました。

 次に責任者に向けて、会社やプロダクトの考え方についてさまざまな角度から現状把握を行いました。最後に、OMEMIEの事業責任者である清水さん(注:丸井 テナントサクセス推進室課長・プロダクトオーナーの清水将貴氏)とメンバーで1on1(個人面談)を行ってもらいました。

ユーザーの意識調査では、 ヒアリングからOMEMIEを利用するペルソナや出店希望者のニーズを明確にした
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峰村巧光氏(以下敬称略) 私も藤沼の言う通り、「一緒に考える」ことを大事にしてきました。UIデザイナーとして専門的な角度から指摘することはありましたが、プロダクト作りに唯一絶対の正解はありませんし、やり方も変わっていきます。「デザインのことは何も分からない」と言っていた丸井グループのメンバーが、裁量権が増えていくことでよりデザインについての考えが深まり、私たちと同じ目線で話すスタンスに変わっていった時には、達成感を感じました。

(右)藤沼拓巳(ふじぬま たくみ)/グッドパッチ Design Div
プロデューサー・UXデザイナー アドテクノロジー企業にてコンサルティング営業やプロダクトグロースチームの立ち上げを経験後、新規事業部のビジネスマネージャーに就任。2021年グッドパッチにUXデザイナーとして入社。ユーザーリサーチやビジネス理解を基にした体験設計やサービスグロース設計に従事。2022年よりプロジェクト創出や統括を担うプロデューサーも兼務。
(左)峰村巧光(みねむら たくみ)/グッドパッチ Design Div
UIデザイナー 2019年グッドパッチにUIデザイナーとして入社。レシピサービスやスマートホーム事業のグロース、採用プラットフォームの業務システムの立ち上げに際してソフトウエアデザインを担当。NewsPicks主催NewSchool「顧客志向のUIUX戦略」講師や教育機関での講師業にも従事。(※取材当時)