「開かれた学び」の特性

 上述では、ひとりの学び手が効果的に学ぶ特性に焦点をあててきた。昨今は、「学び」が個人の頭の中で完結するものというより、人どうし、あるいは人と道具、人と環境などという「関係性」のなかに生じるものとする考え方が広がっている。

 例えば、同じ目的をもった学び手で構成する実践共同体(コミュニティー)に参加することで、他者との違和感を通じて、自己のアイデンティティーを変化させたり、専門性への自覚を促されたりという効果が確認されている(荒木,2009)。

 また、社会や組織が抱える課題も、かつては専門性の高い特定の個人やチームに任せれば解決できたものが、昨今では高度に複雑化し、多様な専門家がコラボレーション(協働)しなければ解決できない状況となっている。このような状況を踏まえて、共同性や社会性といった特性も、仕事を通じて学ぶうえで重要性を増している(美馬,2008)。

コミュニティーへの参加 挑戦的で新規性のある課題に取り組む姿勢
共同性 深い学びにつなげるためにコラボレーション(協働)しようとする姿勢
社会性 社会的に意味のあるものであることを学ぼうとする動機づけ

 以上、先人たちの研究から、学ぶ力とは何で、どのような要素があるのかをひもといてきた。次回は一歩踏み込んで、自律的にキャリアを構築しようとする働く個人にとっての学びにフォーカスしていく。

参考文献
松尾睦(2011). 職場が生きる人が育つ「経験学習」入門 ダイヤモンド社

美馬のゆり(2008). 学習環境の構築と運用 佐伯胖 学びとコンピュータハンドブック 東京電機大学出版局

コンサルタント 佐藤 達実(さとう たつみ)

組織・人事コンサルティング事業本部
チーフ・コンサルタント

人や組織の成長を“学び”という観点から伴走・支援します。
“学び”や“学習”は、誰もが経験してきた概念であるが故に、一人ひとりが自分なりの“学習観”をもち、それが当たり前のものとなっています。しかし、その「学習観の違い」が組織の成長を阻害する大きな要素となり得ることには気づきにくいものです。
まずは自身がどのような“観”(学習観、リーダーシップ観、マネジメント観など)を持っているかに気づき、対話を通じて「学び続けるチーム」「学びあうチーム」へと成長することを支援します。昨今はテクノロジーを活用することで、学びの効果を高めることにもチャレンジ中。