コロナ対策としてテレワークの推進が進み、従業員教育・育成にオンライン研修を導入している企業も増えている。

 これまで同様の集合型(リアル型)の研修の在り方も模索する会社もある中、リアル・オンラインそれぞれの研修の強みと可能性について、日本能率協会コンサルティング(JMAC)シニア・コンサルタントの渡邉聡が新規事業・組織開発・人材育成などのワークショップデザインを行う、PLAYWORKS代表のタキザワケイタ氏に話を聞いた。

コンサルタント 渡邉聡(わたなべ さとし)

株式会社日本能率協会コンサルティング
経営コンサルティング事業本部 CX・EXデザインセンター
シニア・コンサルタント

サービス産業を中心に、CS経営推進、サービスデザイン、新サービス開発、サービス生産性向上、業務改善、顧客対応力強化といったテーマで20年以上のコンサルティング経験を有する。著書に「サービス産業におけるサービス品質向上」など

PLAYWORKS Inc. 代表 タキザワケイタ氏

インクルーシブデザイナー・ワークショップデザイナー
新規事業・組織開発・人材育成など、企業が抱えるさまざまな問題を解決へと導きます。また 一般社団法人PLAYERS にて、新感覚ダイアログワークショップ「視覚障害者からの問いかけ」や、テクノロジーで点字ブロックをアップデート「VIBLO by &HAND」、顔が見える筆談アプリ「WriteWith」の社会実装など、社会課題の解決に取り組んでいる。
https://keitatakizawa.themedia.jp

オンラインコミュニケーションのメリットとデメリット

JMAC渡邉

コロナ対策としてのテレワークの推進もあり、この1年で急速にオンラインコミュニケーションが増えましたね。オンラインのコミュニケーションにはメリットもデメリットも双方あると感じているのですが、いかがですか?

タキザワ氏

そうですね、私の仕事もほぼ全てオンラインになりました。メリットは場所にとらわれずワンクリックでつながることができる、これが一番大きいですね。そして、これまでは対面で長時間やっていた会議がZoomやslackで十分に代替できた、ということもメリットです。

JMAC渡邉

リアルな会議が減った企業は多いですよね。

タキザワ氏

この期間でコミュニケーションの手段が増え、目的に応じてツールを使い分けることができるようになりました。オンラインという選択肢が増えたことによって、目的別に最適なツールが整理された気がします。例えば、1対1の対話はむしろオンラインの方が向いていることもあります。オンラインでは大人数は難しいという話をしましたが、ウェビナー形式であれば10人も1000人も準備は変わらない。チャットでリアルタイムに質問を受けることもできて進行しやすい。

JMAC渡邉

われわれもセミナーをやるときに「質問はチャットで随時受けます」といった進め方にしています。

タキザワ氏

チャットはすごくいいですよね。メインと並行しながら同時に使えるツールってこれまであまりなかった。チャットで補足しながら進行したり、ワークショップやセミナーの最後に感想を投稿してもらって、全員で共有することもできる。チャットの活用法はいろいろと試しています。
デメリットは、大人数でのディスカッションやブレストがしづらい。あとは、内職ができちゃうとか・・・

JMAC渡邉

いますよね、内職している人。

タキザワ氏

サボっている状況が視覚化されないので、内職はやり放題ですよね。あと、既に関係性ができているメンバーであれば、オンラインでもリアルと変わらずにコミュニケーションを取れますが、そうでないときはチームビルディングやビジョンメイキングなどを丁寧にやるようにしています。

JMAC渡邉

われわれもコンサルティングのキックオフでは対面を求められることが多いです。
では、オンラインのコミュニケーションで、うまくやるコツはなんでしょうか?

タキザワ氏

全体のプロセスをきちんとデザインすることを意識しています。具体的に言うと、事前と事後も含めて検討ができているかどうか、ということです。事前にアジェンダや資料、参考URLを送っておくとか、事後に参加していないメンバーに録画データを共有するとか。オンラインという制約のおかげで、効率化されたことも多いと思います。

ITインフラとツールリテラシーが現在の課題

JMAC渡邉

一時期、「会議の効率化」に取り組む企業が多くありましたが、その中でも事前準備の話はありましたよね。リアルとオンラインで何か違いがありますか?

タキザワ氏

slackやGoogleドライブ、miroなどのオンラインツールが充実したことで、できることが大きく広がりましたが、同時にそれらを使いこなすリテラシーが求められています。例えば、紙資料じゃなくてデジタルデータであれば、スキマ時間にスマートフォンで確認したり、複数人で共同編集したりすることもできる。最近、私は散歩しながら音声を文字化するアプリを使って、企画書を作ることもあります。

JMAC渡邉

逆にITインフラが整っていなかったりツールリテラシーが低い環境では、やはりリアルの場にはかなわないのでしょうか?

タキザワ氏

そうですね。基本的にワークショップや研修は、IT環境やリテラシーの低い人に合わせてデザインせざるを得ない。また、企業によってはセキュリティの問題で利用できないツールがあったりする。現状ではそれらがオンラインの可能性を阻んでしまっています。

ワークショップや研修での工夫

JMAC渡邉

ワークショップや研修で気を付けていることはありますか?

タキザワ氏

オンラインのワークショップでは、プログラムを複雑にしないようにしています。ファシリテーターが介入できる余地は少ないですし、参加者側の情報も限られているので、必要最低限のファシリテーションでも質を担保できるプログラムにすることを心掛けています。

JMAC渡邉

複雑にしないという点について、もう少し詳しくお話しいただけますか。

タキザワ氏

リアルであれば参加者や場、アウトプットを見ながらプログラムやワークをチューニングしたり、場合によっては大胆に変更することもできますが、オンラインだと難しいですよね。

JMAC渡邉

確かに、リアルならやりやすいことをリモートでは工夫する必要がありますね。私たちも創造型のアウトプットをディスカッションで作り上げていくときに、リアルなら模造紙と付箋紙、といったツールを使ってやるところですが、それができない。なので、参加者はリモート、ファシリテーションするわれわれはクライアントを訪問してクライアントのPCで議論に入り、共有ツールでまとめていく、といった進め方をしました。

タキザワ氏

オンラインでもツールを活用することで、場のコントロールや参加者の対等な関係性をつくれると考えています。リアルの場合のプレゼンって、意外とみんな聞いていない(笑)。でも、オンラインではタイマー機能や画面共有、スポットライト機能など、ツールを駆使しながらファシリテーションすることができます。例えば、Zoomのブレイクアウト機能でランダムでペアをつくり、短時間の自己紹介をシャッフルしながら繰り返していくと、一気に場が温まるのでオススメです。

JMAC渡邉

オンラインでのクオリティを上げていく、ということですね。では、オンラインのコミュニケーションで、うまくやるコツは何でしょうか?

タキザワ氏

これはワークショップに限らず普段の会議などでもいえることですが、事前と事後も含めて検討ができているかどうか考え、全体のプロセスをきちんとデザインすることを意識しています。事前にアジェンダや資料、参考URLを送っておくとか、事後に参加していないメンバーに録画データを共有するとか。オンラインという制約のおかげで、効率化されたことも多いと思います。
いかにオンラインの弱点を克服し、オンラインならではの可能性を生かし切れるかがポイントです。とは言っても、やはりリアルでしかできないこともあるので、コロナが収まった後はリアルとオンライン双方の強みや特性を把握した上で、ハイブリッドなプロセスのデザインが求められると思います。

オンラインとリアル、それぞれの価値

JMAC渡邉

研修やワークショップのオンラインならではの価値ってありますか?

タキザワ氏

オンラインの良いところは、自分のペースでやれるところですね。昼休みと個人作業を兼ねて時間を長めにとり、アウトプットを持ち寄ってその後のワークを行う、といったやり方も効果的です。

JMAC渡邉

冒頭で、オンラインは場所を気にせずつながれるというお話もありましたが、そのあたりを価値として生かせることもあるのでしょうか?

タキザワ氏

リアルだと会場を予約したり、移動時間を含めてスケジュールを調整しなくてはいけないので、1回にいろいろと詰め込もうとしてしまい、それが制約になっていたと思います。

JMAC渡邉

確かに、場所の制約がなくなると参加者を増やすこともできますね。

タキザワ氏

そうなんです。また、オンラインだと時間だけ押さえれば良いので、短めのワークショップを連続開催していくスタイルも可能です。複数回にすることで合間の時間を活用できるので、アウトプットの質も上げることができます。

JMAC渡邉

複数回に分けることで議論やアウトプットの質を高めることができるということですね。

タキザワ氏

そして、オンラインであればグラフィックレコーダーや専門家、外国人などもハードル低く参加してもらえる。場所の制約がなくなったことで、参加者が多様になったのはオンラインならではの可能性ですね。また、あえて制約を利用して、カメラオフで名前を匿名にした「覆面座談会」なんていうのも面白いですね。

JMAC渡邉

オンラインに切り替わった当初は、リアルをオンラインに置き換えるという感覚だったのが、今はそれぞれの良さを発揮して、場に適したツールを選択することができるようになったんですね。そうなると、リアルならではの価値は今後、どんなことになっていくとお考えですか?

タキザワ氏

プロトタイピングの検証などモノを使ったものは、やはりリアルでないと難しいです。ユーザーインタビューなどでは、リアルとオンラインの違いについて、実践しながらうまく使い分けていきたいですね。

JMAC渡邉

われわれも、職場風土改善といったテーマだとオンラインインタビューだけではなかなか職場の雰囲気がつかみづらい、といった経験がありますが、何がリアルと違うのかということは十分分析できていないですね。

タキザワ氏

オンラインだと無駄がなくなりますよね。リアルだと無駄なことが多い。会議室にいって、名刺交換してとか・・・ でも、そういった無駄な時間や体験が大切だったのかもしれないですね。

JMAC渡邉

オンライン営業とかでも、はっきりとした用件がないと、アポがとれないというのが悩ましいと聞きました。

タキザワ氏

オンラインでは効率的になりますが、あえて無駄なことや遊びの要素を入れていけると良いですね。アイデア発想でも、そういう遊びの部分がないと、いいアイデアは出てこない。積極的に無駄を楽しんでいきたいですね。

JMAC渡邉

いろいろなお話をいただき、ありがとうございました。オンラインディスカッションはまだまだ黎明期ですが、ツールもリテラシーも今後、急速に発展すると思います。リアルとオンライン、それぞれの価値をうまく発揮してコミュニケーションをとれる企業が、より成長するといえそうです。

〔対談を終えて〕オンラインとリアルの今後

 コロナ禍の対応として急激なオンライン化を求められた企業も多く、研修も当初は「リアルで開催できるようになるまで急場をしのぐ」といった意味合いでのオンラインが多かったように思う。

 しかし、実はオンラインだからこそのメリットも多く、使い分けが重要だといえる。参加メンバーがプロトタイピングをしていくようなワークショップや初めてのメンバーが一堂に会して、そこで時間をかけてでもアウトプットを出し切る、といったようなワークショップは従来のようにリアルが効果的である。

 また、ファシリテーション側からいえば、状況を見ながらリーディングを変えていくような場合はリアルがやりやすい。

 一方で、短時間×多頻度×多人数といったようなワークショップや講義中心のワンウェイの研修といったものはオンラインが効果的である場合も多い。

 リアルかオンラインかの二者択一でないハイブリッド型も含め、いずれくるアフターコロナに向けて、こういったナレッジや経験値を蓄えていくことが重要である。