原材料費やエネルギー価格の高騰が喫緊の課題とされる日本。書籍『プライシングの技法』の著者で、野村総合研究所 グローバル製造業コンサルティング部の下寛和氏は、商品サービスの価値に見合った価格を設定し、利益を確保することこそが今、日本企業に必要なことだと語る。前編となる本記事では、日本企業に求められるプライシングとの向き合い方や、値付けを苦手とする日本企業に足りない「3つの要素」について解説する。
■【前編】コスト高に直面する日本企業を救う「プライシングの科学」(今回)
■【後編】プライシング先進企業に学ぶ、組織の利益最大化を実現する「3つの条件」
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日本企業に突きつけられる「値付けの現実」
――初めに、著書『プライシングの技法』の概要を教えてください。
下寛和氏(以下敬称略) 日米の金利差による円安の進行、ウクライナ危機による原材料やエネルギー価格の高騰によって、これまでゼロインフレ社会と呼ばれていた日本でも、商品サービスの値段が確実に上がっています。
さらに、日本企業のお家芸だった「コスト削減」が限界を迎えています。いまや「いかに商品やサービスの価値に見合った値段を設定し、いかに利益を確保するか」が企業の競争力を左右する時代といえるでしょう。
こうした背景を踏まえつつ、本書ではプライシングの重要性や、日本企業が値付けを苦手とする理由、値付けを奏功させるためのポイントについて解説しています。
加えて「24の価格戦略」など、プライシングに必要なノウハウについても豊富な事例と合わせて一冊にまとめました。企業の経営者から商品開発、マーケティング、営業の担当者まで、幅広いポジションの方にお読みいただける内容になっています。
――原材料等のコスト高は、多くの企業にとって死活問題となっています。一方、スマホの普及やテクノロジーの発展が続く中で、プライシングはどう変わっているのでしょうか。
下 ここで見逃せない点は「消費者が商品の値段や品質を簡単に比較できるようになった」ということです。かつては実店舗で価格を調べて、Web上で商品を購入する流れが一般的でした。昨今は実店舗に行かずとも、Webやアプリの情報だけで商品を比較することも容易になっています。
例えば、比較サイトを使えば過去に遡って商品の値段を調べることができます。コスト高に伴って商品パッケージを縮小したり、内容量を少なくして値段を据え置いたりすると、すぐにばれてしまう。消費者が賢くなったことで、以前のように企業側が優位的な立場をとることが難しくなっています。
では、コストアップを販売価格に反映するには、どうすればよいか。単刀直入に言うと 「価値を高める」必要があります。他の商品にはない価値があれば、同時に値上げをしても消費者の納得を得ることができるでしょう。
しかし、原材料のコストが上がったからといって値上げをしてしまうと、消費者は頭でわかっていても抵抗感を示してしまう。このあたりの値付けは日本企業もかなり苦心している状況です。