2022年に岸田政権がスタートアップ育成5か年計画を発信するなど、政府機関や自治体がスタートアップ企業を支援する取り組みが今後手厚く進められる。日本の戦後復興を第1創業期とするならば、今こそ第2創業期の波を起こす時だととらえ、政府や自治体はさまざまな政策を打ち出しているのだ。今回は『How To STARTUP』(久野孝稔著、あさ出版)の中からそんな盛り上がりを見せるスタートアップの強力な後押しにとなる行政との連携について事例を用いながら紹介する。

(*)本稿は『How To STARTUP』(久野孝稔著、あさ出版)から一部を抜粋・再編集したものです。

小さな成功体験を積み重ねる

「ロボットスーツを着て街を歩く」

 私は公務員として働いていた時期に、三井物産の子会社である物産ナノテク研究所に出向し、ナノテク、ロボット等の新規事業創出プロジェクト立ち上げをサポートするなど、商社流のスタートアップ企業立ち上げの経験を持ちました。その後、筑波大学発のスタートアップ企業であるCYBERDYNE(サイバーダイン)に転職し、営業部長として全国の病院・福祉施設2000か所を訪問し、ゼロイチの市場開拓に奔走しました。

 冒頭のロボットスーツのアイデアは、私がCYBERDYNE時代に初代営業部長として社会にインパクトを与えつつ、商品のイメージが傷付かないようなアピール方法はないかと模索していた時に思いついたものです。

 この時、ちょうど生活支援ロボットをバックアップするプロジェクト(生活支援ロボット実用化プロジェクト:2009年度から2013年度まで実施)を経済産業省とNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が始めることを周知するイベントが予定されていました。

 当時CYBERDYNEは、生活支援ロボット推進企業の代表格企業として認知されており、また、ロボットスーツを装着して歩くというPRは、いよいよロボットが生活の中に溶け込む時代が来るぞというイメージ作りにピッタリでもありました。

 そのためNEDOのスタッフもこの計画を喜び、楽しみにしてくれました。現在は、人を支援する装着型のロボットがいくつも世に誕生しているので身近に感じられるかと思いますが、今から13年前(2010年)は想像すらできない出来事でした。

 茨城県つくば市にあるCYBERDYNE本社からロボットを装着して、TX(つくばエクスプレス)に乗車し、JR秋葉原駅に到着。事前に駅員さんには連絡していなかったのでびっくりさせてしまったかと思いますが、みなさん笑顔で手を振ってくれました。

 そのまま秋葉原から経済産業省までロボットスーツを装着した3人が歩きました。マスコミ数十社を引き連れての行脚。この時の様子は今でもYouTubeで見ることができます。

写真中央が筆者
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 とにかく、全てが初めてのことですから何が起きるかわかりません。結果的に当時YouTube動画には世界中からアクセスがあり、10万以上のビューを稼ぐことができました。

 ロボットスーツを装着して外を歩くことは、(営業部では)実はその時まで一度もやったことがありませんでした。私たちは事前に(何度も)関係者と動線確認を行い、よい結果を繰り返しイメージしていました。このような成功体験を当時持てたことは、その後のプレゼンテーションの自信につながりましたし、この経験ができたことで、どんな場面でも物おじせずに果敢に挑戦できました。

 こうした体験から私は、どんな小さなことでもよいので、成功体験を積み上げていくことは、成功するイメージの精度を上げると考えています。