日本はかつて「ものづくり大国」と呼ばれ、世界から多くの称賛を受けていた。しかし、いつのころからか「ソフトに弱い日本」というイメージが前面に出始めた。本当に、そうなのだろうか。2022年7月21日開催の「第1回デジタル田園都市国家構想フォーラム」のディスカッションでは、株式会社ブロードバンドタワー代表取締役会長 兼 社長CEOの藤原洋氏をモデレーターに、Venture Café Tokyo Executive Director、CIC Tokyo President、Babson College Associate Professorの山川恭弘氏、クラスター株式会社代表取締役CEOの加藤直人氏、株式会社エムスクエア・ラボ代表取締役の加藤百合子氏の計4人が登壇。日本のデジタル田園都市の未来を展望する活発な議論が展開され、「地域発イノベーション」に対する期待が述べられた。

※本コンテンツは、2022年7月21日に開催されたJBpress/JDIR主催「第1回デジタル田園都市国家構想フォーラム」のパネルディスカッション「地域発、日本そして世界へつなぐ、All Japanで実現する田園都市」の内容を採録したものです。

地域から「日本らしい」イノベーションの発信

藤原 洋氏
株式会社ブロードバンドタワー 代表取締役会長兼社長CEO

藤原洋氏(以下、藤原) 最初のテーマは「世界へ羽ばたくスタートアップ創出とデジタル技術やデータを活用したミクロ経済起点の成長」です。山川先生のバブソン大学は「起業」が必修化されているということで、まずお話をいただけますでしょうか。

山川恭弘氏(以下、山川) 私はCICとベンチャーカフェ東京というコミュニティを地域発で展開しており、それを世界へとつなげられるようなプラットフォームにしたいという思いがあります。日本は47都道府県それぞれの地域で強みがあります。その強みを引き出してコミュニティ化し、イノベーションを発揮していくような活動を広げられたらと考えています。

藤原 地域の個性を生かしたイノベーター、アントレプレナーを養成しようという試みですね。加藤さんはデジタルやデータを活用して創業する中で、成功されています。成功に必要な要素は何だとお考えですか。

加藤 直人氏
クラスター株式会社 代表取締役CEO

加藤直人氏(以下、加藤直) 「何が成功の鍵か」と問われると、非常に難しいところがありますが、東京と地方では情報の格差とコミュニティの層の厚さに大きな違いがあります。東京だけでなく、例えば関西にも強力なコミュニティがあれば、「埋もれた才能」が表舞台に出てくる機会に恵まれるのではないかと思います。

藤原 加藤百合子さんにもお聞きしますが、今、世界はデジタルやデータが心臓のような存在になっています。

 しかし、日本は起業家の数が少なく、ベンチャーキャピタルの資金調達の金額などを見ても、世界から後れをとっているように感じています。その点をどうお考えでしょうか。

加藤 百合子氏
株式会社エムスクエア・ラボ 代表取締役

加藤百合子氏(以下、加藤百) 日本らしくやっていけばよいと思っています。

 私は「やさいバス」という事業をスタートしましたが、これは世界共通の課題に立ち向かっているため、世界各国へ展開が可能です。地方だからこそ、グローバルに展開しやすい事業が生まれるのではないかと思っています。

藤原 アメリカと日本の両方を見ている山川先生は、日本は置いてけぼりになっていると感じますか。

山川 恭弘氏
Venture Café Tokyo Executive Director, CIC Tokyo President, Babson College Associate Professor

山川 加藤さんの「日本らしく」という考えに、私も賛成です。日本のスタートアップは需要が十分にある部分に対して競争力を高めて世界に向かっていく。一方、外国の企業は最初からスケールして、グローバルでイノベーションを起こしていく。これは、どういう思想で事業を進めていくかの違いだと思います。

 資金調達の面においても、ステークホルダーが同じ方向を向いて、同じスケールでスケーラビリティーを図っていかないと難しいでしょう。そこがアメリカと日本との差なのだと思います。

加藤百 自然資産と課題が多くある地方は、ビジネスの宝庫でしょう。日本には、一度共同作業に入れば力強いチームができるという文化があります。今とは少しだけ異なるプロセスを踏むことで、グローバルに活躍できる事業が生まれていくと思います。

地域メタバースの理想はバーチャルとリアルのハイブリッド

藤原 次のテーマは「地域メタバースの可能性」について。地域メタバースは大阪・関西万博(2025年日本国際博覧会協会)でも活躍が見込まれており、新しい民主主義や地方創生などさまざまな分野での可能性が語られています。加藤直人さんは、地域メタバースの可能性をどう見ていますか。

加藤直 「日本発」や「日本らしさ」のような話でいえば、バーチャルイベントは日本が世界を完全に牽引しています。これはカルチャーやヒストリーのたまものでしょう。メタバースプラットフォーム「cluster」を使い、万博に向けて「バーチャル大阪」を制作しました。メタバースで開催するイベントには、非常に多くの人が参加できます。しかも、イベントを起こす側にとってはコストが安く、バーチャル上だからこそできる演出も多い。非常に良い体験を提供できる場所になっていると思っています。

 民主主義の話をすると、メタバースは「自由」です。特に若い人たちは、自分の理想の世界や環境をバーチャル空間で表現できるのではないかと思っています。都市型メタバースや地域型メタバースを進めるに当たっては、若者のクリエイティビティーを集めて世界を表現させことで、良いものが出来上がっていくのではないでしょうか。

藤原 加藤直人さんのメタバースの活動について、アメリカからも見ている山川先生はどのように感じられていますか。

山川 加藤さんの話のワクワク感は、多くの皆さんに通じていくと思います。またワクワク感は、何か新しいことに挑戦するときに非常に大事なことです。アニメやマンガなど日本が世界に誇るコンテンツは、クリエーターの数・質において大きなアドバンテージがあります。だからこのメタバースという分野において日本が世界をリードすることに驚きはありません。

藤原 「民主主義」という言葉がありましたが、世界的に見れば、アメリカと日本は民主主義のランキングがあまり高くないそうです。特に日本は女性の社会進出も進んでいない。そのような状況下でも、メタバースは非常に自由だと加藤直人さんからお話がありました。山川先生は、民主主義とメタバースについてどのような考えをお持ちですか。

山川 メタバースは民主主義でくくることさえもできない、新しい場所だと考えられるでしょう。それぞれの人たちがそれぞれのオーナーシップを持つようになる中で、民主主義という捉え方自体が難しくなってくるのではないかと思います。個の主義、個の主張、あるいは個の尊重をしていく時代です。

藤原 次は大阪・関西万博に向けて、少しお聞きします。加藤直人さん、万博に向けたコメントをいただけますでしょうか。

加藤直 バーチャルと現実世界の連携は、万博の1つのチャレンジだと考えています。「cluster」では、例えばバーチャル上で服を購入するとデジタルのアバターが手に入り、実際にも服が届くという機能があります。これが万博でも実現できれば面白いですし、そのようなことをチャレンジとしてやりたいとも考えています。

藤原 山川先生は大阪・関西万博にどのような期待をされていますか。

山川 非常に興味はありますが、素晴らしいものが多く出てくることが期待できる一方、完全にリアルとバーチャルが分断してしまうことを懸念しています。だからこそ、リアルとバーチャルのハイブリッドで進めていくのが正解でしょう。クリエーターがどのような面白い仕かけをしてくれるのか、万博はそういったことを世界に発信していく大きな機会になると感じています。