2021年9月にデジタル庁が設置され、10月には岸田文雄内閣が発足。岸田内閣は主要政策の1つとして「デジタル田園都市国家構想」を発表した。同構想とは、「全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会」の実現を目指したもので、その鍵として期待されているのがDXである。しかし、地方自治体のデジタル化の遅れや住民のデジタルリテラシーの問題など、多くの課題がある。デジタル田園都市国家構想でどのように状況が変わるのか、構想の基本方針や実現に向けた取り組みなどについて、内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局の前事務局長の髙原剛氏が解説した。

※本コンテンツは、2022年7月21日に開催されたJBpress/JDIR主催「第1回デジタル田園都市国家構想フォーラム」の基調講演「『デジタル田園都市国家構想』基本方針について」の内容を採録したものです。

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地方におけるDXを推進。誰もが便利に暮らせる社会を実現する

 デジタル田園都市国家構想の背景ついて、内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局の前事務局長の髙原剛氏は、次のように語る。

「本構想は2014年に日本創生会議が公表した、消滅可能性都市についての報告書に端を発しています。ポイントは出生率です。東京圏は女性を中心とした若者が集まりやすい一方で、生計費が高かったり仕事が忙しかったりという課題があり、2人以上の子どもを持ちたいというような意欲が湧きません。一方、地方部においては、農業経営などでかなりの高所得を上げている男性でも、なかなか結婚の機会が得られないという現状があります。国立社会保障・人口問題研究所の発表では、50歳時の未婚割合は男性25.7%、女性16.4%。男性の4人に1人しか結婚をしない状況では、出生率を上げたいといっても課題解決は難しいでしょう。そこで人口の減少に歯止めをかけ、東京圏への過度な人口の集中を是正するために、地方創生への取組を進めることになったわけです」

 国が地方創生に取り組んで今年で8年目になるが、思うような成果は得られていない。2021年の合計特殊出生率は1.30と最低に迫る勢いだ。人口が安定するといわれている2.07にはほど遠い数値である。

 しかし近年、1つ大きな変化が起きている。東京圏への一極集中の是正である。東京に限ってみれば、2019年転入超過数8万7000人から、2021年は1万1000人と9割近い減少がみられた。さらに東京23区では約1万5000人の転出超過となり、これは1996年以来、四半世紀ぶりの変化だ。

「この状況は、コロナ禍による社会の意識や行動の変容、デジタル技術の発展とデジタル基盤の整備による働き方の多様化が、大きな影響を与えているものと思います。東京の密な状態にリスクを感じ、地方の自然豊かな環境が魅力的に映るようになってきたのでしょう。テレワーク、兼業・副業といった働き方が認められるようになったのも理由の1つだと思います」

 また、地域の課題を解決するに当たり、遠隔教育やオンライン診療、MaaS、ドローン物流などさまざまなデジタル技術の活用が視野に入ってきたことも大きい。デジタル技術によって地方の不便さを乗り越えられる姿が想像できるようになったのも、変化への後押しとなったようだ。

「今日、われわれは大きなパラダイムシフトの現場に遭遇している可能性が高い。デジタル田園都市国家構想の本質は、デジタルインフラを急速に整備し、官民双方で地方のDXを積極的に推進していくことです。デジタルによって地方の社会課題を解決し、新しい価値を生み出していくことが、本構想の意義であり目的です」

(資料 内閣官房)
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