ビジネスや人材が都市に集中し、他地域との格差は広がるばかりだ。地方の人口流出や財政難は常態化し、解決の糸口は見えていない。政府は今、都市、地方のいずれかにかかわらず持続可能な社会を実現すべく「デジタル田園都市国家構想」を打ち出し、その実現のために動き出している。
デジタルの力をフルに活用し、地方から新たな変革の波を起こすことで都市との格差を縮め、地方を創生する同構想について、デジタル庁デジタル大臣、行政改革担当大臣、内閣府特命担当大臣(規制改革)の牧島かれん氏に話を聞いた。
※本コンテンツは、2022年7月21日に開催されたJBpress/JDIR主催「第1回デジタル田園都市国家構想フォーラム」の特別講演「デジタル田園都市国家構想について」の内容を採録したものです。
※本記事は、2022年7月時点の情報を基に記載いたします。
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地方の可能性・魅力が生きる「デジタル田園都市構想」
デジタル田園都市国家構想(以下、デジ田構想)は、2022年(令和4年)6月に閣議決定された基本方針 にもとづき政府が一丸となって推進するプロジェクトだ。デジタルを活用して課題解決や魅力向上に取り組む地方自治体の総数は700を超え、地方創生への期待は全国で高まっている。
デジ田構想の実現に当たっては、社会的課題の「宝庫」である地方こそ、デジタルの力がもたらすインパクトは大きく、逆に都市部にはできない形でサステナビリティー実現やウェルビーイング向上といった目標を達成できるはずと、デジタル大臣の牧島氏は語る。
「デジ田構想が目指すのは、単なる東京のスモールコピーではありません。地域の豊かさをそのままに、都市とは異なる利便性と魅力を備えた“新たな地域づくり”です」
デジ田構想が実を結ぶためには、産官学はもとより、市民をも巻き込んで地域の仕事や暮らしの向上に取り組むコミュニティの再設計と、それを支えるデジタル基盤の整備が必須だ。成功事例が増えれば、地方から全国へのボトムアップ型の成長という新たな国家モデルとなり、どこに住んでいても、そして誰でもが便利で快適に暮らせる社会の実現が可能となる。
鍵を握るのは「地域外の人材活用」と「インクルーシブスクエアの構築」
石破茂氏が地方創生の担当大臣を務めていた時代から約8年、担当政務官として地方創生に取り組んできた牧島氏は 、数多くの地方創生を志すプロジェクトが生まれる中で、以下のような課題も見えてきたという。
第1の課題は、人の流れについて。プロジェクトを企画する力は向上しているが、それを担う人材を地域に十分に集めきれていない。このため、よいプロジェクトを企画しても域外の事業者頼みになってしまったり、地域の事業者に資金を分配して終わってしまったりといった状況に陥ってしまうことだ。
第2の課題は、事業化を支える仕組みについて。プロジェクトがよい成果を出したとしても、その後の資金調達や事業化する力がない。多くの取り組みが一過性で終わってしまい、国からの財政的支援を地域経済の成長や成熟化につなげられていない。
ではまず、地域課題と向き合う多様な人材を地域内外から呼び込むためには、どのようにしたらよいのか。これについて牧島氏は「二拠点居住などの多様な暮らしや、さまざまなビジネスにチャレンジをしたい創造的な人材にとっては、都会の暮らしや大企業における働き方は大きな組織や秩序の中で閉塞感を抱かせる場となっています。一方、地方は地域独特の人間関係などはあるものの閉塞感はなく、自由で活力ある暮らしとビジネスを両立する実践の場があるのではないでしょうか。都市部に閉塞感がある状況こそ、人材が欲しい地方にとっては大きなチャンスです」と分析する。
スマート農業、スマート防災、行政DXなどデジタルを活用した取り組みは、地方にはない専門性やチャレンジする活力を有した人材が必要となる。立ち上げたプロジェクトの実施に当たって多様な人材に参加の門戸を広げ、そうした方に出番と居場所を提供することが最も有効な人材集めの一手段だという。
しかし、そうして集まった人材にとって、宿泊施設の部屋以外に居場所がなく、地域で所在なさを感じることも少なくない。これでは一過性の「滞在」に終わってしまう。多様性のあるバックグラウンドを生かした創発性を地域で引き出すためには、多様な人材が横につながるコミュニティの形成が重要となる。そこで有効なのが「インクルーシブスクエア」だと牧島氏は提案する。
「事業を進める側や育てる側など、さまざまな関係者が集まる拠点があると、異なるプロジェクトを担う多様な関係者が地元の人も含めて日常的に顔を合わせ、話し合う機会が得られます。コロナ禍を経験した今、例えば企業が検討しているサテライトオフィスなどの取り組みと連携して、インクルーシブスクエアとして人が集まる空間をつくっていくことは、域内外の人材にとって有益な居場所を提供することにつながると思います」