一時代が終わったことを物語るイトーヨーカ堂の大量閉店
現在、日本チェーンストア協会会長を務める三枝富博氏(イトーヨーカ堂会長)は、中国のイトーヨーカ堂を大成功に導いた人物だ。しかし、中国事業を担当させられたのは、三枝氏にとって決して本意なことではなかった。その時、伊藤氏は三枝氏を呼び、冒頭に記した商人としての心構えをこんこんと説いたという。そうやって三枝氏を励まして中国へと送り込んだ。三枝氏はそれを意気に感じ、中国事業を一から立ち上げた。

鈴木氏は論理的でデータを重視し、仮説→検証を繰り返して顧客のニーズを探っていく。非常に理知的であるとともに、セブン-イレブンやセブン銀行など、誰もが反対することをやり通す腕力もある。しかしそれだけでは組織は動かない。鈴木氏の後ろにいる伊藤氏が、情によって社員を優しく包み込んだことで、社員の心を一つにまとめることでできたのだ。
それだけに、2016年にセブン&アイの社長人事をめぐって伊藤氏と鈴木氏が対立したことは、お互いにとって不幸なことだった。これまで鈴木氏の決断にほとんど異を唱えてこなかった伊藤氏だが、どうしても看過できないことが、この人事の裏側にあったということなのだろう。
1963年に鈴木氏がイトーヨーカ堂に入社した時から、半世紀以上にわたって続いた信頼関係が、この時途絶えた。信頼を信条にしてきた伊藤氏にしてみれば断腸の思いだったはずだ。
それから7年で、伊藤氏はこの世を去る。亡くなる前日には、イトーヨーカ堂の大量閉店と、祖業である衣料品事業からの撤退が明らかになったばかりだった。一つの時代が終わったことを物語っていた。