M&Aで年商規模1兆円が目前の企業も
1兆円の年商規模が目前に迫る企業も出ている。新型コロナウイルスの感染拡大による不透明感が強まるものの、ドラッグストア国内2位のツルハHDと家具・インテリア製造小売り最大手のニトリHDが、早ければ2024年度にも大台を達成する。
両社は本州でも店舗網を広げ、積極的に企業のM&A(合併・買収)を行っている。不況に強いのが特徴で、ニトリHDは2008年のリーマン・ショック後、3カ月ごとに定番商品を大幅に値下げ。ツルハHDは手頃な価格で利益率が高いプライベートブランド商品を充実。2007年のくすりの福太郎(千葉県鎌ケ谷市)の買収を契機に、規模拡大を加速させた。
ジム・コリンズの名著『ビジョナリー・カンパニー』(日経BP)は、飛躍のプロセスを巨大な弾み車に例える。初めはゆっくりとしか回らない。しかし、段々と勢いがつき、どこかで突破段階に入る。勢いが勢いを呼ぶ。どの回転もそれまでの努力によるものであり、同じ方向への押しを積み重ねてきたことこそが重要なのだと論じた。
ノーザンリテーラーが1兆円という節目を超えるということは、弾み車が勢いよく回り始める可能性がある。プリモリサーチジャパンの鈴木氏は「ドラッグストアとスーパーマーケットはスケールメリットがはっきりと出てくるはず。さらなる再編が起こる可能性もあり、持ち株会社から事業統合へとステージも変わってくる」と話す。
また、ニトリHDやツルハHD、アインHDらはいち早く津軽海峡を超えていった。一方で北海道にとどまりシェアを拡大することで道民にとって「なくてはならない存在」になったのが生活協同組合コープさっぽろであり、セコマだ。
コープさっぽろの道内スーパーマーケット業界に占めるシェアはアークス、イオン北海道と肩を並べ、セイコーマートはセブン-イレブンの道内店舗数を上回る。地域ニーズを集約してビジネスとして成立させること、原材料調達から製造、販売までを一気通貫で管理すること、こうした取り組みが両社の体質を強化していった。
雪の下で春を待つ植物のごとく耐え忍び、自力を付けた
北海道経済は厳しい。少子高齢化に歯止めがかからず、経済活動の担い手である生産年齢人口(15~64歳)は減少が続く。2045年の道内人口について、国立社会保障・人口問題研究所は、現在(522万人)より約120万人少ない400万人まで減少すると推計する。総務省と北海道が発表した2020年国勢調査の確定値によると、道内の生産年齢人は298万8800人と、前回調査(2015年)から20万2004人減り、1955年以来65年ぶりに300万人の大台を割り込んだ。
5年間の人口減少数は47都道府県で最も多く、人口減少のスピードは速い。自治体ごとにみると、人口が最も増えた札幌市が2万1039人増、最も減った函館市が1万4895人減だった。北海道内179市町村のうち、人口が増えたのは札幌市や千歳市など12市町村にとどまった。
基幹産業である農水産業の衰退、深刻な少子高齢化。さらに政府が進める国と地方の税財政改革による交付税縮減。自治体の疲弊は激しく、そこに人口減少が追い打ちをかける。いわば北海道は「課題先進地」だ。その意味ではノーザンリテーラーは社会課題に立ち向かい、社会ニーズを受け止めていった企業群だった。
物流コストがかかり「北海道価格」と揶揄されるほど物価の高い地域とされてきた北海道に大手小売業が進出したのは1967年。長崎屋が札幌市に1号店を開業し、それにダイエー、西友、イトーヨーカ堂が続いた。バブルとバブル崩壊、さらに拓銀の破綻など、ノーザンリテーラーは何度も荒波に襲われた。しかし、春が来るのを雪の下から待っている植物のごとく耐え忍び、自力を付けた。そして経営者たちも徐々に自信を深めていったのだ。
◇
筆者・白鳥和生の新著『不況に強いビジネスは北海道の「小売」に学べ』(プレジデント社)が2022年10月31日に発売されます。ご興味のある方はお手にとっていただけると幸いです。