大阪市中央区にある塩野義製薬の本社(写真右)

 大阪・道修町に本拠を置く塩野義製薬株式会社(以下、シオノギ)は、そのルーツを1878年に創業した薬種問屋「塩野義三郎商店」にまでさかのぼる。2020年には、2030年に実現したいビジョンと、その達成に向けたビジネス変革による新たな成長戦略「STS2030(Shionogi Transformation Strategy 2030)」を発表。その実現に向けた取り組みを加速しており、2021年にはDX推進本部を新設している。そのシオノギのDXへの取り組みと目指す将来について紹介をしよう。

ヘルスケア領域への拡大を盛り込んだ「STS2030」

 シオノギは、2020年6月に中期経営計画「STS2030」を発表している。シオノギでは、同社が2030年に成し遂げたいことを「2030年 Vision」として策定しており、STS2030はこれを達成するための戦略と位置付けている。

 シオノギは、従来の医療用医薬品のみを提供する「創薬型製薬企業」から、ヘルスケアサービスを提供する「HaaS(Healthcare as a Service) 企業」へと自らを変革し、社会に対して新たな価値を提供し続けていくことで、患者や社会の抱える困りごとをより包括的に解決したいと考えている。

 そのためには、創造力と専門性をベースとした創薬型製薬企業としての強みをさらに進化させ、ヘルスケア領域の新たなプラットフォーム構築に向けて、異なる強みを持つ他社・他産業から選ばれる「協創の核」となる必要がある。シオノギは変化を恐れず、多様性を受容し、既成概念を超えて「Transform」することで、新たなビジョンの実現に取り組んでいくとしている。

シオノギの中期経営計画「STS2030」

以前からの取り組みがDXの下地に

 シオノギがヘルスケアの領域で社会に貢献していくベースには、未病という疾患の症状が出ていない状態から、予防、診断、治療、その後のケアまでのペイシェントジャーニーの流れの中で求められているニーズをしっかりと把握し、そこにマッチした薬を含めたサービスを提供していくという考え方がある。

 その実現のためには、患者のさまざまなアクティビティに関する情報の収集と分析が非常に重要になる。中期経営計画を策定する中でも、データの利活用やそれを支えるIT基盤が今後の重要なケイパビリティになるという考えがあったという。そこで、DXを統括して推進していける部署が必要となり、2021年にDX推進本部を立ち上げた。

 とはいえ、シオノギは以前からDXと呼べる取り組みを行ってきている。具体的には疾患治療に対するデジタルを活用したアプローチが挙げられる。米国のAkili社が開発したADHD治療アプリの国内での開発を進めていたり、サスメド社から不眠症の治療アプリを導入したりしている。こうした疾患の治療にデジタルを活用する取り組みは数年前から始めている。

 データ活用という観点でも、数年前に専門の部署を設置し、そこには多くのデータサイエンティストが在籍している。このように、企業内の各所で行われていたDXに関する取り組みをシオノギ全体としての戦略的に統括するため、DX推進本部を立ち上げたという。