メーカーがDXに力を入れている。製造業のDXについては、欧米や中国で取り組みが進んでおり、ドイツは「Industrie 4.0」(第4次産業革命)、中国は「中国製造2025」という技術政策により,製造業の高度化を進めようとしている。そのため,日本でも、製造業のDXを進める動きが官民で見られる。
日本のDXの最新動向を紹介するこの連載では、まず製造業を取り上げ、DXにより、ものづくりだけのメーカーから脱皮する大きな展開(革新)を図る動きを見てみたい。ファクトリーDX(工場内のDX)だけでなく、サービス化やビジネスモデル革新に乗り出す企業が増加。プラットフォーム構築や研究開発の革新を進める動きも多く見られるようになっている。
【生産技術】変種変量生産・「見える化」が進化
生産技術面のDXとしては、変種変量生産技術により、変化し続ける市場ニーズに迅速・的確に対応することが可能となる。究極的には、マス・カスタマイゼーションと呼ばれるような個人個人に合わせた高生産性の製品化が実現できる。
生産の「見える化」も進化している。定期的なメンテナンスを行う予防保全と併せて、予知保全(機械や設備を監視して不具合や故障を予知して部品の交換・修理などを先んじて実施)を行うことが課題であったため、機械にセンサーを付けてIoTでデータを収集、AIで分析することで、異常検知・故障予測などに取り組む企業が増えている。つまり、未来の「見える化」が進んでいるのである。
また、デジタルツイン技術(サイバー空間上で実世界を再現)がDXで活用され始めている。JFEスチールでは直接の確認が困難な高炉の状態を仮想的なデジタルツインで再現して、最適運転を可能にした。DMG森精機では、顧客企業が設備導入前に、実機で行うテストカット操作をシミュレーターで試せる「デジタルツインテストカット」という機能を提供している。このように、デジタルツインにより、見えないものを「見える化」して確認できるようになるため、格段の効率化が期待できるわけだ。
【事業プロセス】製品販売に加え、サービス化が加速
製造業では、従来から収益力向上のためのサービス化が課題となっている。
以前より、製造業では一般的に、サプライチェーンの最上流の製品企画・設計と最下流のサービスにおいて利益が集中する傾向が言われている(スマイルカーブ)。そのため、DXを検討する際は、製品販売だけでなく、サービスやソリューションのビジネスモデルへの展開も考慮に入れることが望ましい。さらには、顧客企業や他の製造企業などと協力してエコシステム(共存共栄する仕組み)を実現することが理想的である。
メーカーは、販売した機器(製品)の利用時間・回数・センサー情報などのデータをIoTで集め、無線ネットワークを通して収集し、それらのビッグデータから稼働状況などを分析できるようになった。そのため、アフターサービス(点検・予防保守・整備など)や、最適なサービス運用の提案を行うなどの新たなサービス事業への展開が盛んになっている。
IoTからデータを収集する仕組みによって、課金の方法も変わりつつある。収益面では、販売時の収益だけでなく、販売した製品に対しての継続的なサービスを行うことで、リカーリング(継続収益)のビジネスモデルが期待できる。リカーリングは、定額制(サブスクリプションサービス)だけでなく、成果報酬・稼働課金や運用管理サービスによる収益構造をとることもある。
航空機エンジンを製造するロールスロイス社やGEは、販売するのではなく、エンジンの出力時間(飛んだ分)に対して課金する方法を採用している。このような収益構造は、サービスの充実につながるため、利用企業に対しても魅力的である。