ソフトバンク デジタルトランスフォーメーション本部 本部長 河西慎太郎氏

 コロナ禍、猛暑、大雨災害など、社会状況が激変した2022年の夏に、大ヒットした商品があるのをご存じだろうか。それは「熱中症お見舞い金」保険だ。熱中症で点滴治療を受けた場合に治療保険金が支払われる、また2日(1泊2日)以上の入院をした場合に入院保険金が支払われるもので、国内の多数の地域で真夏日を記録した6月25日(土)、26日(日)の加入件数が、前週の6月18日(土)、19日(日)と比較して約6倍になったという。また、気温の上昇に伴って、さらに申し込みが増加し、発売からわずか3カ月間で契約件数は5万件を突破しているという。

 この人気の理由は、時流に合った契約内容と、キャッシュレス決済サービス「PayPay」アプリから加入ができる簡単さがある。実は、この簡単さを生んだ ITプラットフォームは、ソフトバンクが手掛けるDXから生まれた「リードインクス」社が提供している。ソフトバンクと保険という意外な組み合わせを生み出したDXについて、リーダーであるソフトバンク デジタルトランスフォーメーション本部 本部長 河西慎太郎氏に聞いた。

DXという言葉が知られていない頃から、デジタルによる新事業を模索

 ソフトバンクのDXへの取り組みは比較的古く、現在のデジタルトランスフォーメーション本部の創設は2017年10月と、既に5年弱(2022年8月取材)をへている。2017年といえば、iPhoneは8とXが発表され、将棋の藤井聡太氏が14歳で29連勝した年だ。「DXって書いたら、デラックスと読むのですか、と聞かれました」と河西氏は語り、当時、国内ではデジタルトランスフォーメーションへの認識はほとんどなかったと加える。

 河西氏は、同年5月に副社長に呼ばれ、翌年(2018年)の一部上場に向けて、今後の成長戦略になり得る新規事業を立ち上げてほしいと言われる。ソフトバンクを急速に成長させた通信事業は、今後、同等の伸びは期待しにくい。日本で少子高齢化の度合いが高まる中で、成長戦略につながる新規事業を立ち上げるという大役を任せられた。河西氏は(断るすべもなく)「はい」と答え、その代わり、新規事業だから半年や1年で成果は出ないし、そのための人、物、金のリソースはしっかり応援してほしいと伝える。

 こうしたやりとりの中、ソフトバンク デジタルトランスフォーメーション本部(以降、DX本部)は動き出す。法人事業を中心に、営業職並びにエンジニアを120人ぐらい呼び寄せてスタートした。

 これがなかなか難儀なスタートだった。ここまでソフトバンクは、他社買収などで事業規模を大きくしてきた経緯がある。河西氏自身も、ソフトバンク以前は日本テレコム在籍だった。しかし、それだけでは、新規事業に必要な中長期的な視点を養いにくい。長い目で育成するスキルが薄かったわけだ。

 そして、アイデアソンを実行して、3週間で400以上の新規事業のアイデアを集めた。ただ、集まったものからは、新規事業を支えるような太さをイメージさせるものはなかった。「個人の理解できる範囲の中で、新しいこと、やってみたいことの集まりだったのです。ニッチ過ぎて弊社が事業としてやるような話はなかった」(河西氏)

 そこでDX本部は、全員で再度、自分たちのミッションを見つめ直す。半年近くの議論ののち、ミッションとして2つを定めた。それは、
・ソフトバンクの次の柱になる事業を創出
・日本の社会課題に対峙

 そしてこの2つを達成するための手法も大きく転換。自力でゼロから1を生み出すことにこだわらず、パートナーと事業を共創し、1から100を目指す。また、その時のパートナーは、企業規模や過去の取引などに関係なくフラットに探すとした。こうした基本姿勢がはっきりしたことで、DX本部の歩みは格段に明確になる。

 同時に、人材スキルの強化も実施。新規事業提案実践型研修、マーケティング研修、デザイン思考研修、ファイナンス研修などなど10以上もの研修を行った。こうした結果、AI技術を中心に、新たに19の新事業を立ち上げ、それらの独り立ちを目指すという方針を決定した。

社会課題の解決を目指して、19の新規事業を立ち上げ。技術の中心にAIを配置し、その周囲を5G、IoT、Cloudなどで固め、物流、食品小売、ヘルスケア、社会インフラなどの領域で事業を実施する