需要予測、ヘルスケア、水・・・、ソフトバンクのDX事例

(1)飲食リテールの収益を改善しフードロスを抑える一石二鳥のサービス「サキミル」

 サキミルは、飲食を含むリテールの需要予測をAIで行うサービスだ。各リテールが持っている店舗データに加え、ソフトバンクの人流データ、日本気象協会の気象データ、周囲のイベントデータといったものを活用してAIで予測する。サキミルは複数のデータを参照することで予測精度向上を可能にし、ドラッグストアの来店客数予測を行う実証実験では93%という予測精度を達成した。当然、こうした予測は、スタッフのシフトにも活用できるので人件費の最適化にもつながる。

(2)健康医療相談チャット、オンライン診療、医薬品の配送サービスなどを一気通貫で提供「HELPO」

 医療業界も改善すべき点は多い。厚生労働省調べでは、月155時間以上の超過労働の医師がいる病院が71%、診察までの病院での待ち時間が30分以上の病院が43%あるという。こうした結果も含め、行政の医療負担額16兆円という数字がある。HELPOは、健康医療相談チャット、オンライン診療サービスなどを通して、こうした医療の課題解決に貢献することを目指すサービスだ。医療リソースの最適化や個々人の通院負荷軽減を可能にし、結果、全体としての医療費軽減を目指す。

(3)水インフラに頼らない水の提供「WOTA」

 水インフラの老朽化が激しい。総務省調べでは、耐震の水道管はわずか3割、過疎地域の3分の1が赤字経営、年間4兆円が国庫などによる負担とのこと。ソフトバンクは、水の再生処理技術に長けたWOTA社と資本・業務提携を行い、こうした水課題の解決を目指している。使用済みの水の質などを、センサーで調べてAIで最適な水処理を行える同社のソリューションを使い、水を繰り返し利用可能にする循環システムを構築し、配管接続に頼らない水インフラを展開する。まずはリゾート施設やゴルフ場、また過疎地域や離島のようなインフラ維持や財政面での課題が強く顕在化している市場で展開し、循環型の水インフラの普及を推進する。

DXを目指すなら関係者を巻き込み、当事者意識を持ってもらうことが大切

 こうした事例以外にも、ソフトバンクのDXは現在、次々と芽が出て花が咲いている。こうした結果について河西氏はどう評価し、その成功要因についてはどう考えているのだろう。

「人を巻き込むこと。やはり巻き込む力が大切で、これがないと多分難しかったと思います」と河西氏は述べる。

 DX本部が誕生したとき、同本部はソフトバンクのいろいろな部署から人を集めた。通信とは関係ない業界の人材だったり中途採用の社員もいて、まさに人種のるつぼ。会社を横串しにしてできたような組織だった。それでも、そうした多種多様な人材が一緒になってDXを目指せたのは「皆を(DXに)巻き込んだ。そこから、いろいろな人材や部署から協力を得られるようになりました。私だけの力でできたことなんて、何一つありません」と河西氏は、巻き込んだ結果、生まれた協力体制が功を奏したと強調する。

 そして、2番目の要因は経営側の後押しだが、「副社長の今井を含む経営層とは、こうした協力体制が必要であることを、事前にしっかりと議論・認識合わせをした」と河西氏は当時を振り返る。

 河西氏が述べる成功の要因は、そのままDXを目指す人たちへのメッセージにもなる。DXを目指す、DXで新規事業を起こすときは、自分以外の他者を巻き込むことが必要で、そのためには「巻き込む力が問われる」と河西氏は述べる。

「『今は何もないけれどもこうやったらうまくいきそうです』と夢を見せる力、魅力的に相手に伝える力がすごく重要だと思います。それがあるから、『じゃあ、やってみよう』と巻き込めるわけです。この力を磨くことがDXをする人には必要だと思います」(河西氏)

 そして、もう1つ、成功よりも失敗の方が多いという経験から「失敗を受け入れてあげる、そうした懐の深さが、一人一人にも必要ですし、組織にも会社にも必要だと思います」と河西氏は加える。

 そうなるためにも河西氏は、DX Valueという定義を行い、「われわれの行動指針とか、マインドの持ち方ってこれだよねって言えるもの、心の拠り所を作りました」と、それを紹介する。それはフラット(平等、同志)、オープン(開示)、コネクティッド(つながり)、シェア(共有)、コラボレーション(共創)とされており、フラットだから、皆が上下なく同じ場所に立てて、だから情報がシェアされる。シェアされるから、それをコネクトできて、コラボレーションにつながるという定義だ。

ソフトバンクのDX本部が掲げる5つのDX Values。「Flat」からOpen、Connected、Shareが生まれ、Collaborationにつながる

「皆を巻き込みながら、数年後に来るであろう成功の喜びを、いかに分かち合うかということを考える。それがやはり正しいと思うし、それをするには、やっぱり、一組織とか一個人ではできない」。河西氏はこう述べ、皆がフラットであることの重要性を説明し、そこから全てが始まり、共創につながると重ねた。